「気持ちいい風ね~」
「ええ」

 お店の外で人を待つ私たちに、刺々しさがずいぶん和らいできた北風が、冬の終わりを知らせてくる。新年の宴から時は過ぎ、そろそろ気の早い花々は春に向け、大地から顔を覗かせようという頃。

 こちらにかけて緩く登る坂道を、少女と老人が手を振りながら上がってくる。本日魔導具店、“辺境伯の御用達”に新しい仲間が加わるのだ。
 彼らは辿り着くと、私たちに大きく挨拶をした。

「朝早くから済みませんな。ほれ、ちゃんとせい」
「分かってるよ爺ちゃん。こほん。改めまして、鍛冶屋オルジの孫のルシルです。今日から日替わりでこちらにお世話になります……ってことで、よろしくどーぞ、おふたりさん」

 そう、オルジさんのお店からよく荷物を納品しに来てくれていた、鍛冶屋の娘ルシルが、本日から週に何度かこのお店の店員として働いてくれることになったのだ。

「こちらこそよろしくね」