「せっかくの祝いの日に済まないな。こんな血なまぐさい話を聞かせて。だが、お前には知っておいて欲しいと思ったのだ、なぜかな……」

 ディクリド様のそんな言葉で我に返った私は、胸に詰めていた息を吐き出すと、左右に首を振った。

「とんでもありません! その、私は……」

 彼の身にこれまで色々なことが起きていたことは、家族が居ないことからもなんとなく想像できたが、実際に本人の口からこうして聞いてみると、あまりにも壮大過ぎて反応に困ってしまう。
 今の私とそう変わらない年の頃から、彼は国の存亡の岐路に立ち、その目で何千何万という人々が死ぬところを見つめて来たのだ。

 そして、彼は誰に頼るところもなく、自らの問題を片付けてしまった。色々なきっかけがあったにせよ、相次ぐ大切な人の死や、戦いの恐怖、突然に背負わされた責務……それらすべてを抱えてなお崩れたり、曲がったりせずに、周りのために真っ直ぐ立ち上がった。それを聞いて私は……。

 なんて強い人なんだろう――そう、思ったのだ……。

「ふ……まるで懺悔だ。いかんな、宴は夜遅くまで続く。この話は忘れて、お前もあの輪の中に入って楽しんでくるといい」