素晴らしい速度で一体の駿馬が城の外に走り出る。
 その勢いは騎乗する私にものすごい風圧を与え、思わず目を瞑りそうになる。

「わぷっ……」
「ははは……速いだろう。だが見てみろ、いい景色だぞ。ハーメルシーズ領の馬は、どいつも鋼鉄の様に強靭な足をしているからな。戦場では頼もしい相棒となるのだ」

 ヒヒィンと、そんなディクリド様の声に応えるように黒毛の馬が嘶いた。

 ……今、私はディクリド様と共に一体の馬の馬上にある。彼の前に座り、背中を支えてもらう形で鞍の上に跨って。
 鋼鉄と言うならば、背中にあたるディクリド様の身体がまさしくそうだ。まるで柱のようにしっかりと私の身体を支え、女ひとりの重さくらいでは小揺るぎもしない。

 それでいて、背中からは、温かな体温と穏やかな心拍が伝わってくる。
 弾むような独特の振動と爽やかな風を感じていると、しばし悩みを忘れ……私は彼らと一体となってディクリド様が繰る手綱の先に――ハーメルシーズ領の風景を見つめ続けた。

(楽しい……!)