ここは、ノルシェーリアという王国の王都ペルティネに構えられた貴族屋敷。
 そして、サンジュ・ファークラーテンというのが私の名前だ。

 伯爵家を名乗ることが許されたファークラーテン家の長女に当たり、ふたりの兄――銀髪に眼鏡をかけた知的な顔立ちのソエル、金髪で刺々しい目をした荒々しい風貌のザドの下の第三子、末子に当たる。見目好いふたりと違い、私自身は貴族らしくもなく、長い赤髪に灰色の目をしたどこにでもいる娘でしかない。

 ちなみに父ウドニスは銀髪、母メレナは金髪ということもあり、彼らから私のような容姿のものが生まれることはあり得ない。使用人の噂では……私は、母の妊娠中に屋敷の父が侍女に手を付けて生まれた卑しい子供なのだということだ。そして、侍女はその責めを負って家から追い出され、死んだのだと聞かされた。

 それゆえ、使用人の私に対する当たりは褒められたものではなく、陰口やささやかな嫌がらせは日常茶飯事。気を抜けば大事なものを隠されたり、食事に砂やごみを混ぜられたり嘘の情報を教えられたりと……陰湿な行為は今まで続いている。おかげで私には歳を重ねるごとに人と関わることが苦手になった。

 そうして、それらに輪をかけて酷い扱いをしたのが兄弟だ。
 ファークラーテン家は、元々貴族だったわけではない。父のウドニスに、生まれつきささやかな魔力があったことで、偶然彼の代でお国に取り立てられ、爵位を賜ることができたのだ。