ここは、ハーメルシーズ城の城主たるディクリドの私室である。

 気が引き締まる気がするから、という彼の好みで寒色系の落ち着いた内装で整えられた室内で、ディクリドは今は直近で受けたある報告についてじっと頭を悩ませている。先日、小規模な侵攻を行った隣国であるマルディール王国に、またも動きがみられたのだ。

「前回の攻撃は、小手調べだったということか……」

 こちらの反撃に対し、やけにやすやすと撤退を決めたと思ったが……あれはこちらの戦力を測るためだったのだと見れば納得がいく。
 つまり……少なくとも数か月後には敵は、こちらの防衛線を突破できる見込みの陣容を用意して突っ込んで来ることが予想される。

(また……領民に苦労を掛けることになるな)

 ほんの半年程前戦勝に沸き立っていた民たちを、また先の見えない戦いに付き合わせなければならない。ディクリドとしては、貪欲な敵国に文句のひとつもぶつけてやりたいところである。

 しかし、いくら抗議の声明など放ったところでそれに実質的な効力はない。敵国も自分たちの資源不足を解消しようとこのような手段に出ているのかも知れないが、そんなことは知ったことではない。