サンジュが王都を去って二カ月ほど経ち……ファークラーテン家では大きな騒ぎが起こっていた。

 娘がいなくなったということで叙爵の宴は延期され、王都にて人を雇い大規模な捜索が行われたが、結局その足取りは掴めていない。
 当主ウドニスの執務室で、使用人たちが揃う中、大きな怒鳴り声が響き渡る。

「貴様ら、大の男が雁首揃えて小娘のひとりも見つけ出せんというのか! この役立たず共めが……!」
「お、お許しください! 街中をしらみつぶしに探しはしたのですが、なにぶん広い王都で目撃情報も少なく……。屋敷の者が夜間にふらふらとどこかに歩いていった姿を見かけたところを最後に足取りが追えませんで。ほら、あの方は目立たない娘でしたから」
「言い訳はいらん! あの娘は、グローバス侯爵の元に嫁がせねばならんのだ! 侯爵だぞ侯爵! 今しばらくは病にかかったということにして婚礼を待ってもらっているが、あまり相手の機嫌を損ねれば、せっかく掴んだ結婚話を破談にされるどころかどうなるか……! そうなればこれまでさんざん遜って媚びを売ってきたのが台無しだ! いいか、絶対に見つけ出せっ! 見つかるまでこの家に戻ってくるな!」
「「か、必ずや!」」

 ウドニスの配下の男たちが、執務室から蹴りだされるようにして散ってゆく。
 その様子を、サンジュのふたりの兄、ソエルとザドは冷静に見ていた。