ファークラーテン家が新たな領地を与えられる――そんな話を聞かされた一週間後、私はまた父に呼ばれ、執務室に参じた。

 忙しい日々はあれからも続き、私はふたりの兄に扱き使われて心身ともに疲れ果てていた。視界の色味が時々薄れ、真っ白になったりするのは倒れる前兆なのだと何度か気を失った経験で知っていたが、それを理由に父からの呼び出しを断われるほどの気力は私には無かった。

「失礼いたします」
「ふん……ひどい顔だな。恨むなら己の非才さを恨むべきだろうが……。まあ、そんなお前にもようやく有効な使い道ができたということだ」

 父は、執務室の席から立ち上がると、ひとつの書類を私に突きつける。

「これに署名しろ」

 なんのことだか分からずに直立したまま、私はその書類を受け取り、そして固まった。

 そこには、【婚姻証書】と書かれている。言うまでもなく、結婚のための良家の取り決めを記した書類だ。混乱しながら私は父に尋ねる。