その日――。
 執務室の机の前に立つ兄ふたりと私に対し、声高に父は告げた。

「喜ぶがいい! この度国家の繁栄に寄与する新しい魔導具を発明し、このノルシェーリア王国を大きく発展させたとして、我が子爵家は新たに領地を賜り、伯爵家を名乗ることを許された!」
「それは……めでたきことですね」
「おおっ! これで当家も安泰ですね!」

 上の兄――細身で、銀の髪に眼鏡をかけた冷たい目の美男と、下の兄――体格のよい、吊り上がった目をした金髪の青年がそれぞれ祝いの口上を述べる。

「……おめでとうございます」

 そして、付け加えるように小さく私も……。
 それは本来、喜ぶべき報せのはずである。領地という新たな収入源を得て、当家が今まで以上に栄えようというのだ。より良い結婚相手にも恵まれ、幸福な将来が約束されるのだと、そう思えればどれだけよかっただろう。

 しかしそうなることを、私は想像できなかった。今までの私に対する彼らの扱いが、そんな甘い期待を露ほども抱かせてくれなかったのだ。