寒くなってきた季節。
 その日は急激に冷えた日だった。

 外から部屋に戻ると遥斗は、塩味のカップラーメンをいつものように食べていた。コートを脱ぎながらラーメンを眺める。食欲をそそる香りと湯気は、食べると身体が温まるんだろうなと想像をさせてくる。

「夜食のラーメン、いいな……」と、自然と俺の口から言葉がこぼれた。

 そう呟いた次の日の夜だった。友達のところから戻ってくると、なんと、白いテーブルの上に味噌味と醤油味、ふたつのカップラーメンを並べてくれていた。

「どっちが、いいかな? あ、でもね、いらなかたったら無理しなくてもいいから」

 上目遣いで瞬きが多い遥斗。
 俺と話す時の緊張感が、いつも以上に伝わってくる。

「どっちでもいいのか?」
「うん」
「じゃあ、味噌で」
「ありがとう! じゃあ、お湯入れてくるね!」

 微笑みながら遥斗はカップラーメンをふたつ持って、共用キッチンに向かった。

 お礼を言わないといけないのは自分なのに。何故かお礼の言葉を俺に言ってきた遥斗。戻ってくると遥斗はカップラーメンを白いテーブルに置いてから、首を傾げる。

「どうした?」
「菅田くん、どっちを選んだっけ?」
「味噌だけど」
「あ、そっか! じゃあ、どうぞ」

 遥斗は左に寄り、俺が座れる空間をあけた。そして空間の前に味噌味のカップラーメンを置いた。

 実は遥斗の白いテーブルは初めて使う。

「ラーメン、美味しいな」
「美味しいよね」

 確かに寝る前は、俺も少しだけお腹がすいている。その時に食べるラーメンは美味しかった。

「なんか、ここに座布団とかあったらいいかもな」
「……だよね! 実は僕もそう思ってたんだ。床にずっと座ってるとお尻が痛くて……でも全然大丈夫だけどね」
「なんか一緒に買いに行くか?」
 
「行く、行きたい……」
「じゃあ、今週の日曜日とかどう?」
「うん、いいね」

 買いに行く約束をするとお互い無言になって、ラーメンをひたすらすすった。満足そうな表情の遥斗。この日に遥斗と俺の心の距離は、少しだけ近づけたのかな?と思う。

 ラーメンを準備してくれて、気遣ってくれて。
 遥斗は、俺にない優しさを持っている――。

 眠る時、オレンジ色の小さい光に照らされた遥斗の寝顔を、可愛いなと思いながら、自分もベットで横になりじっと見つめていた。そして目を閉じると、さっき隣に座り、美味しそうにラーメンを食べていた時の遥斗の表情が、頭の中で繰り返された。

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