「このことは二人だけの秘密ってことで。周りには言わないように」


私は承知しましたとばかりに何度も頷くと、宮野先輩は自分の飲み物を買いながら「一年生?」と私に問いかけた。


「は、はい!」
「何組?」
「二組です」
「名前は?」
橘楓(たちばなかえで)です」


素直に問いかけに答えていると、宮野先輩は「コラコラ」と今度は困ったように笑う。
何か変なことで言っただろうかと私は首を傾げる。


「そんなに素直だと、さらわれるぞ?」


そう言われてペラペラと自分のことを話してしまった口元をあわてて手で覆った。
宮野先輩だからと、素直になりすぎた自分がちょっとだけ恥ずかしかった。
でも訊いてくれることには答えたくて、自分のことを知ってもらえることが嬉しかったのだ。


「一年二組の橘楓ちゃんか。覚えとく」


そう言って宮野先輩は私に背を向けると、飲み物を開けて口にしながら廊下の向こう側へと消えていった。
彼に奢ってもらった私の緑茶のペットボトルはすでにもう汗をかきはじめている。
しかし今度は確かに手の中にある、宮野先輩と過ごした痕跡だ。


喉が渇いていたはずなのに、私はなんとなくそれを開けて飲むのを躊躇ってしまう。


転がしてしまったお金を拾ってくれたことも。
飲み物を奢ってくれたことも。
私のことを覚えておくと言ってくれたことも。
夢のような現実だ。


(……また会いたいな)


願えば叶うものかもしれないし、そのときは私のことを少しでも覚えていてくれたら嬉しい。

この度、推しが出来まして。
私の生活にまでキラキラと輝きを分けてくれるような、そんな尊い存在です。