「足りる?……いや、いくら落としたかなんてわかんないか」
「あ、ありがとうございます……」


お金を落とした恥ずかしさやら、宮野先輩と接している嬉しさやらで、感情がジェットコースターにでも乗っているかのようにぐるんぐるん大回転である。
そんな私のそばで何事もなかったかのように彼は自販機と向き合い直し、お金を手早く投入した。
そしてこちらを振り返って、また静かに口角を上げて微笑むのだ。


「好きなの押しなよ?」
「え……」
「飲み物、買いに来たんじゃないの?ほら早く」


遠慮しようにも急かされて、慌てて私は緑茶のボタンを指先で押した。
すぐに飲み物が自販機の取り出し口に落下した音がして、それすらすぐさま宮野先輩が拾い取ると「はい」と私に手渡してくれる。


「奢り」
「あの……状況的には私が奢るべきというか……」
「“ありがとう”は?」
「え、あ、……ありがとうございます!」


促されて勢いよくお礼を言うと、宮野先輩ははっと笑った。
お礼とともにお辞儀した私の頭をポンポンと叩くように優しく撫でる手は大きくて、優しくて、私をまたドキドキさせる。