私はコインケースに指先を突っ込んだまま、硬直状態でその姿を見つめてしまう。
あまりのことにポカンと口が開いてしまったけれど、もはや口の閉じ方がわからなくなってしまったかのようにただただポカンと宮野先輩を見つめることしか出来なかった。


彼は私に気がついて、口角をあげて静かに微笑むとお先にどうぞとばかりに、スッと右手を自販機へと向けた。
飲み物を買いに来ていたことを思い出したけれど、正直それどころでもなくなって慌ててしまった私の指先からコインが数枚、床へと滑り落ちる。


「あっ……」


悲鳴のように零れた私の声と、冷静に何が起こったかを捉えたような宮野先輩の声が絶妙に重なった。


私が動き出すより先に宮野先輩は転がりゆくコインをすぐさま追いかけて、拾い上げてくれる。
すみませんと言葉が私の口から零れそうになるのを遮るように、宮野先輩は吹き出すように笑った。


「マンガみたいなことするね?」


そう言って、100円玉と10円玉を一枚づつ、私に手渡してくれた。