第五章 再会の予兆

退院してから2週間が経ち、龍太郎の生活は少しずつ日常を取り戻していた。デイケアに通う日々が再開され、彼は以前よりも落ち着きを取り戻していたが、心の奥には真美への思いが依然として燻っていた。再会できるだろうか、連絡はもう来ないのだろうか――そんな疑念が、ふとした瞬間に顔を出す。ある日、デイケアに向かうバスに乗っていた龍太郎は、ふと窓の外を眺めると、例の水色の車がまた視界に飛び込んできた。ナンバーも「89-14」、間違いない。偶然か、それとも何かの兆しなのか。龍太郎は一瞬、心臓が高鳴るのを感じた。バスが目的地に近づくと、彼は不意に思い立ち、普段降りる停留所よりも手前で降りた。胸騒ぎが抑えられなかったのだ。その場所は真美が通う作業所の近くだった。龍太郎は一歩一歩、慎重に歩を進めながら、胸の中で高まる期待と不安に揺れ動いていた。彼が作業所の近くまで来ると、ふとした瞬間に見覚えのある姿が視界に入った。短めのショートカット、そして淡いピンクのカーディガン――真美だった。彼女は少し俯いて歩いていたが、龍太郎に気づいた瞬間、足を止めた。二人の目が合う。
「真美…」龍太郎は自然と口を開いた。
真美は少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。「久しぶりですね、龍太郎さん。」その声は以前と変わらず穏やかだったが、どこか少し疲れたような印象もあった。
「元気だった?」龍太郎はどうしても平静を保とうとしたが、再会の喜びが言葉ににじみ出ていた。
「まあ、ぼちぼち…かな。でも、龍太郎さんも最近、見かけなかったけど大丈夫?」真美は心配そうに彼を見つめた。
「入院してたんだ。少し調子が悪くなってね。でも、もう大丈夫だよ。」龍太郎は少し照れくさそうに答えた。
「そうだったんだ…大変だったね。でも、また会えてよかった。」真美は少しほっとした様子で言った。その言葉に、龍太郎は胸が温かくなった。二人はそのまま近くの公園のベンチに腰掛け、しばらく会話を続けた。昔話や最近の出来事について、あまり重くない話題を交わしながら、少しずつ距離を縮めていく。しかし、心のどこかで、龍太郎は気づいていた。今度こそ、ただの日常の再会では終わらないだろうと。この再会は、何か新しい展開を予感させるものだった。真美と再び向き合うことで、龍太郎は自分自身がどれだけ彼女に対して強い感情を抱いているかを再確認したのだ。やがて、夕日が公園を染め始める頃、二人は帰る準備をし始めた。龍太郎は、勇気を振り絞って真美に言った。「また今度、一緒にご飯でもどうかな?」
真美は少し考える素振りを見せた後、優しく微笑んで答えた。「うん、いいよ。いつにする?」
その瞬間、龍太郎は胸に強い鼓動を感じた。今度こそ、彼は進展の兆しを掴んだのだ。