第四章 再会の奇跡

真美は、私の言葉を聞いて笑っていたが、その笑顔の奥に隠された複雑な感情が垣間見えた。彼女の目が一瞬、遠くを見つめるようにぼんやりとしたが、すぐに戻ってきた。
真美「魔法、ね。もし本当にそんなものがあったら、どうなるんだろう」
私は軽く笑いながら返す。
私「魔法で未来を変えられるなら、今までの苦しみも、全部帳消しになるかもね」
真美「…本当にそう思ってる?」
彼女の声が急に真剣になった。私は言葉に詰まった。軽く流すつもりの会話だったのに、真美はまるで私の心の奥底を見透かしているかのようだった。
私「…わからない。でも、魔法なんて現実には存在しないだろう?ただの願望さ」
真美は静かに首を振った。
真美「魔法じゃなくても、私たちの人生には時々奇跡が起きるんだと思う。偶然の出会いとか、すれ違いとか、そんなものが積み重なって…。でも、その奇跡を掴むかどうかは、私たち次第なんじゃない?」
私は彼女の言葉に驚いた。真美はいつも何かを抱えているように見えて、深いところではもっと繊細で複雑な感情を持っていたんだと気づかされた。
私「そうかもな。でも、奇跡って、自分で作り出せるものなのか?」
真美は小さく笑った。
真美「作り出すというよりも、気づくことが大事なのかもしれない。奇跡が起きていても、それに気づかなければ意味がないでしょ?」
私は彼女の言葉を反芻しながら、深く頷いた。確かに、今まで気づかずに過ぎ去ってきた多くの出来事が、もしかしたら奇跡だったのかもしれない。真美との出会いも、その一つだろうか。その時、ふと私は思い出した。あの日、真美のLINEに既読がついた瞬間。それが、ただの操作ミスだったとしても、それがきっかけで再び繋がりが生まれたこと。それ自体が、もしかしたら奇跡だったのかもしれない。
私「じゃあ、俺たちの出会いも奇跡だと思うか?」
真美は少し考えるようにしてから、微笑んだ。
真美「そうかもしれないね。奇跡の一つ一つが、こうして繋がっていくんだと思う。今こうして、あなたと話していることも含めて」
彼女の言葉に、胸が熱くなった。この瞬間こそが、私にとっての奇跡だった。だが、その温かな気持ちに浸る間もなく、真美は急に立ち上がった。
真美「でも、奇跡に頼りすぎるのもよくないよね。現実をしっかり見ないと」
そう言って彼女は、車のキーを手に取り、私に背を向けた。
私「真美、どこへ行くんだ?」
振り返ることなく、真美は車のドアを開けた。
真美「ちょっと考えたいことがあるの。今日はありがとう。でも、しばらく連絡しないでほしい」
その言葉に、胸が締め付けられた。なぜ、こんなにも急に距離を置こうとするのか理解できなかった。けれども、彼女が背負っているものが、私にはまだ分からないのかもしれないという直感があった。
私「わかった。連絡はしない。でも、いつでも待ってるから」
真美は小さく頷き、そのまま車に乗り込んだ。車が静かに発進し、私の前から遠ざかっていく。見送ることしかできない自分が、無力に感じた。
「奇跡を信じていいのか…」
自分に問いかけるように呟いたその声は、風にかき消された。それから数日間、真美の姿はデイケアにも現れなかった。LINEにも、もちろん既読はつかない。再び音信不通になった彼女に、私は焦りと不安を抱きながらも、奇跡を信じて待ち続けるしかなかった。再び、あのスピリチュアルな感覚が私を取り巻く。真美との繋がりが、運命の糸で織りなされているような気がしてならなかった。