今朝のことがあったせいで、案の定、その日の授業は全然、集中できなくて――いや、まぁ普段からそんなに真面目に授業聞いてるわけでもないけど――あっという間に放課後の時間になった。

「陸先輩と波琉ってさ、意外と話の波長が合うよね。タイプ真逆そうなのに」

 帰り道、穏やかな海外沿いの道路を私達は今朝と同じように走っていた。
 
「まぁ、なんだかんだ去年からずっと一緒にいるしなー」
「確かに、教室行くとだいたいいつも一緒に話してるもんね」
「でも、一年の最初の頃はそんなでもなかったよ。一回、クラスのグループ活動があってさ、そん時に俺が誘って、それからすっかり意気投合したって感じ」
「そうだったの?」
「うん。あれ、ひょっとして美海、陸にヤキモチ焼いちゃった?」

 私の沈黙を、波琉はどうやらそういうふうにとらえたらしい。

「ち、違うよっ! ただ」
「ただ?」
「やっぱり、波琉はすごいなって思っただけ。私、まだクラスであんまり仲良い子作れてないから……」

 毎日、苦手な勉強についていくので精一杯。

 だからこそ、私にとって本音を話せる波琉の存在はすごく大きな支えだ。もう波琉と離れ離れなんて考えられない。

「美海だって、きっとできるよ」
「どうかな……」
「別に友達は絶対にクラスにいなきゃいけないってわけじゃない。だからそう焦んな。俺がいくらでも美海の話し相手なってやるから!」
「ん、それもそうだね、ありがと、波琉」

 ちょっぴりキザなセリフだったけれど、きっと本人は自覚もないんだろう。

 ただ純粋に私を勇気付けようとしてくれている。

 私の味方でいてくれる。

 やっぱり、ずるいなぁ、そういうところ。

「それに美海、もう陸とは俺の知らない間にめっちゃ仲良くなってるじゃんか。前までお互い名字呼びだったのに」
「それはただ、陸先輩が一方的に話しかけてくれてるだけで……」

 私は基本的に聞き役に徹していることが多い。
 元はといえば、下の名前で呼び合おうって提案してくれたのも陸先輩からだったし。

「友達ってほどじゃないよ、多分……それに陸先輩、年上だし」
「それをいうなら俺だって年上だぞ?」
「波琉のことは、年上だって思ってない」
「なんでだよぉ!?」
「なんでもなにも……たまにすごい幼稚になるじゃん」
「そんなぁー! シクシク! 俺悲しいっ!」

 わざとらしく泣き真似をする波琉に、私はちゃんと前見て運転しないと危ないよと軽く注意をする。
 
 言えなかったんだ、本当は。

 君の前でだけは、一番、素直な自分でいられる気がするから、なんて本音。

 だって、言ったらきっと彼はすぐに調子に乗るだろうから。