あれから約二年と数ヶ月。

 私は中学卒業を機に、当初の想定よりもだいぶ早くに水ヶ島へ戻ってこれた。

 もちろん、高校も波琉と一緒だ。

「って、ヤバッ! もうこんな時間!?」

 ベッドの上のデジタル時計を見ると、普段家を出る時間をすでにオーバーしていた。

 後、五分くらいのつもりで二度寝したのが、まずかったかな……。

 私は大慌てでクローゼットから制服を引っ張り出すと、急いで学校へ行く支度をした。


 キッチンで洗い物をしていたお母さんに慌ただしい行ってきますを告げてから、足早に玄関を出る。

「ご、ごめん、待った? って、なんで自転車?」

 外では波琉が、最近、新調したばかりらしい青の自転車にまたがって待っていた。

「今からだと電車間に合わないから、急いで家から引っ張り出してきた!」
「私、まだ自転車買ってないんだけど……」
「だーかーら、俺が乗せてく! それに美海は自転車あっても乗れないだろ?」
「そ、それは小学生の時の話! 今はちゃんと乗れるようになったもん! 一応……」

 本当のことを言えば、高校生になった今でも自転車はちょっと苦手。

 で、でも、別にまったく乗れないわけじゃないよ?

 私が一人でごにょごにょ言い訳をしていると、波琉はそろそろ行かないと本当に遅刻しちゃうからと、後ろの荷台に乗るよううながした。

 い、いいのかな……。

 実を言うと、私はまだ波琉に告白の返事をしていない。

 波琉もそのことに至っては一切、触れてこない。

 いつ言い出そうかとずっとタイミングを見計らってはいるのものの、後、残り一歩のところでいつも踏みとどまってしまう。

 いつまで立ってもずっと立ち尽くしたままの私に、波琉がどうした? と、神妙そうな顔で振り返る。

「な、なんでもない!」

 私は振りきって、波琉の後ろに横向きに座った。

 何を私はぐずぐずしているんだろう。

 それこそ小さい時は散々、波琉におんぶしてもらってたんだし、今さらこれくらい気にすることじゃない、よね。

 波琉はまだ少し不思議そうにしていたけれど、そこは私がなんとか言って上手く誤魔化した。

「そいじゃ! 汐瀬《しおせ》高校行き、まもなく発車しまーす!」 
 
 元気なかけ声と共に、波琉がペダルをこぎ出す。

 それとほぼ同時に、蝉の鳴き声が住宅街一帯に一斉にこだました。
 
 それはまるで梅雨が明けて、夏の訪れを喜ぶ讃歌みたいだった。