夏祭り当日。
神社の屋台を思う存分、堪能した私達は花火を見るために海岸沿いの高台へと移動していた。
「美海! もうすぐ花火始まるよ!」
「はいはい、言われなくてもわかってるよ」
毎年、ここで花火を見るのが私達の小さい頃からのお決まりだった。
お祭り効果なのか、いつも以上にテンションが舞い上がっている波琉は縦縞模様の入った緑の浴衣にさっき屋台で買った狐のお面を頭の横にかけている。
すらりとした長身とそのちょっとやんちゃそうなギャップが相まって、本人は無自覚なんだろうけどシンプルにカッコイイと思う。
対する私は、水色の花柄模様の浴衣を半ば無理やりお母さんに着付けられた。
波琉も同じようなこと言っていたから、ひょっとしたら夏月さんとお母さんが仕組んだ策略だったのかもしれない。
「あのさ、美海」
「ん、なに?」
「急にこんなこと言い出して、変なのって思うかもしれないけど、俺、父さんに会ったんだ。夢の中で」
眼下に広がるまっさらな海に波琉は一人、語りかけるようにぽつりぽつりと言葉を継いだ。
「そんでさ、言われたんだ。美海ちゃんと仲良くやれよって」
ふわりと彼の横顔に笑みが浮かぶ。
その直後だった。
ヒュー、ドカン!
夜空一面に、ぱっと大きな光の花が咲いた。
「おぉぉ! 始まったよ、美海!」
「見ればわかるって」
まるで小さな子どもみたいに空を指差す波琉。
「綺麗だな!」
「うん……」
無数の光の花びら海に反射しては鮮やかに夜を彩った。
また波琉と一緒にこうして水ヶ島の花火を見られたことに、胸の奥底から震えるような感動が湧き上がる。
今、この瞬間がたまらなく愛おしくて幸せだった。
美海ちゃんと仲良く、か。
波琉のお父さんの涼介さんがどんな人なのか、私はまだ何も知らないけれど、いつか写真でもいいから見てみたいと思った。
きっと波琉に似て、にぎやかで面白い人なんだろうなとあれこれ想像を膨らませながら。
「ねぇ、美海。こっち向いて」
「ん?」
それはきっと花火よりも短い、ほんの一瞬の出来事だった。
そっと唇に触れた温かい感触。それがキスだとわかるまでに、数秒かかった。
「えっ、ちょっと波琉!?」
いきなりのことに私の心臓は花火以上に大きな音を立てて跳ね上がる。
尋常でないほど顔が熱い……。
つま先から全身にかけて脈動までおかしくなったみたいだった。
へへへへと、まるでいたずらっ子みたいに頬をかきながら笑う彼。
「せっかく恋人になったんだから、それっぽいことしたいなーって思って」
「だとしても、せめてもう少し前置きくらいあるでしょ……!」
「ハハハハ! ごめんごめん」
正直、まったく反省の色が見えない謝罪だった。
「も、もう!」
むくれる私に対して、彼はまんざらでもなさそうだった。
なんなら、さらに私をおちょくってくる始末。
けれど、実際、悪い気はちっともしない。
彼が楽しそうに笑っているところを見ているだけで、私の心は自ずと温かい感情で満たされていく。
どうか、この先もずっと一番の特等席で君の笑顔を見ていられますように。
神社の屋台を思う存分、堪能した私達は花火を見るために海岸沿いの高台へと移動していた。
「美海! もうすぐ花火始まるよ!」
「はいはい、言われなくてもわかってるよ」
毎年、ここで花火を見るのが私達の小さい頃からのお決まりだった。
お祭り効果なのか、いつも以上にテンションが舞い上がっている波琉は縦縞模様の入った緑の浴衣にさっき屋台で買った狐のお面を頭の横にかけている。
すらりとした長身とそのちょっとやんちゃそうなギャップが相まって、本人は無自覚なんだろうけどシンプルにカッコイイと思う。
対する私は、水色の花柄模様の浴衣を半ば無理やりお母さんに着付けられた。
波琉も同じようなこと言っていたから、ひょっとしたら夏月さんとお母さんが仕組んだ策略だったのかもしれない。
「あのさ、美海」
「ん、なに?」
「急にこんなこと言い出して、変なのって思うかもしれないけど、俺、父さんに会ったんだ。夢の中で」
眼下に広がるまっさらな海に波琉は一人、語りかけるようにぽつりぽつりと言葉を継いだ。
「そんでさ、言われたんだ。美海ちゃんと仲良くやれよって」
ふわりと彼の横顔に笑みが浮かぶ。
その直後だった。
ヒュー、ドカン!
夜空一面に、ぱっと大きな光の花が咲いた。
「おぉぉ! 始まったよ、美海!」
「見ればわかるって」
まるで小さな子どもみたいに空を指差す波琉。
「綺麗だな!」
「うん……」
無数の光の花びら海に反射しては鮮やかに夜を彩った。
また波琉と一緒にこうして水ヶ島の花火を見られたことに、胸の奥底から震えるような感動が湧き上がる。
今、この瞬間がたまらなく愛おしくて幸せだった。
美海ちゃんと仲良く、か。
波琉のお父さんの涼介さんがどんな人なのか、私はまだ何も知らないけれど、いつか写真でもいいから見てみたいと思った。
きっと波琉に似て、にぎやかで面白い人なんだろうなとあれこれ想像を膨らませながら。
「ねぇ、美海。こっち向いて」
「ん?」
それはきっと花火よりも短い、ほんの一瞬の出来事だった。
そっと唇に触れた温かい感触。それがキスだとわかるまでに、数秒かかった。
「えっ、ちょっと波琉!?」
いきなりのことに私の心臓は花火以上に大きな音を立てて跳ね上がる。
尋常でないほど顔が熱い……。
つま先から全身にかけて脈動までおかしくなったみたいだった。
へへへへと、まるでいたずらっ子みたいに頬をかきながら笑う彼。
「せっかく恋人になったんだから、それっぽいことしたいなーって思って」
「だとしても、せめてもう少し前置きくらいあるでしょ……!」
「ハハハハ! ごめんごめん」
正直、まったく反省の色が見えない謝罪だった。
「も、もう!」
むくれる私に対して、彼はまんざらでもなさそうだった。
なんなら、さらに私をおちょくってくる始末。
けれど、実際、悪い気はちっともしない。
彼が楽しそうに笑っているところを見ているだけで、私の心は自ずと温かい感情で満たされていく。
どうか、この先もずっと一番の特等席で君の笑顔を見ていられますように。