後日、私は八城さんを公園に呼び出した。まだいくつか残っているやるべきことを果たすために。

「なんだよ、急に呼び出して。愛してやまない幼なじみが目覚ましたからって、彼氏自慢でもしにきたのか?」
「そ、そんなんじゃないよ! ていうか、なんでそうなるの!?」
「アハハハ! 悪い悪い、でも、よかったじゃんか」

 自販機の前でコーラを立ち飲みしていた八城さんは、さも愉快そうに笑う。

「今日は八城さんに伝えたいことがあるの」
「ワタシに?」
「うん。信じられないかもしれないけどね、私、優希奈ちゃんと会ったの」

 コーラの缶を持っていた八城さんの手が、一瞬、ぴたりと動きを止める。

「……変な冗談はよせ、流石に騙されねぇつーの」
「本当なの!」

 語気を強めて言った私に、ぴくりと八城さんが肩を震わせた。

「優希奈ちゃん、言ってたよ。本当は八城さんのこと大好きなんだって」
「……んなわけ、ねぇ。デタラメ言うな」

 絞り出すような声で言って、八城さんは顔をうつむけた。よく見ると、右手に持った缶が少しへこんでいる。

「デタラメなんかじゃない。だって私、優希奈ちゃんと直接話したから」

 私は八城さんのそばまで歩み寄って、彼女の右肩にそっと手を触れた。

「証拠なんてないし、そりゃ私が言ってることは破茶滅茶かもしれないけど、優希奈ちゃんがあなたを想う気持ちは本物だった」

 少しの間、八城さんはうつむいたまま黙っていた。

 やっぱり、流石に無理があったかな……。

「なんでだろ。お前の話聞いてたらよ、今、優希奈の声が聞こえた気がした」

 すっと彼女が顔を上げる。その表情はすっかりわだかまりが解けたみたいに晴れやかだった。

「お前が代わりに伝えてくれたんだってな、美海」
 
 夏の青空を見上げながら、彼女はふっと柔らかな笑みを浮かべた。

「ありがとう、これでやっと優希奈とも仲直りできた気がする」