それから程なくして雨の音がやんだ頃。

「そういや、さっきの話の続きってどうなったんだよ? お前が幼なじみと喧嘩したってやつ」

 ベッドの上でゴロゴロしていた八城さんから、そんなことを聞かれた。

 喧嘩っていうよりは、あれは私が一方的に波琉に当たってしまったわけだけれど。

「それはそのなんというか、その後、私、風邪引いちゃって」
「風邪?」

 拍子抜けしたような顔で、八城さんが起き上がって私を見る。

「……三十九度の熱が出たの」
「三十九度!?」
「う、うん」
「普通に重症じゃねぇか、それ。さては前の日に水遊びでもしたか」
「す、するわけないよっ。私、その頃はほとんどずっと家にいたし」
「んじゃ、単なるなまけ病だな」

 ま、まぁ、それは……確かに一理あるのかもしれない。

 だけど、当時の私は天罰が下ったんだって思ってた。

 学校にも行かないでお母さんとお父さんに散々、迷惑をかけたあげく波琉にも酷いことを言ってしまったから。

 けれど、お母さんはその時、付きっきりで私の看病をしてくれた。それでも、熱は全然、下がらなくてとにかくしんどかったことだけは覚えてる。

「なんかひどい頭痛がして、立ち上がったら私、突然、倒れちゃったらしくて。後はもう気付いたら病院だったなぁ」

 病院にはお母さんもお父さんも波琉もみんないた。

 波琉なんかよかったよかったって泣きながら、ずっと私を抱きしめてくれた。

 今思えば、波琉の泣き顔を見たのはあの時が初めてだった。

 それまでの波琉は、私の前じゃいっさい泣いたりしなかったら。

「でも、私、その時、ごめんねって波琉に素直に言えなくて。代わりにみんなして心配し過ぎだよって言ったら、当たり前だろって波琉にすごい怒られた。それでやっと気付いたんだ。私ってこんなにみんなから大切に思われてたんだって」

 本当にあの時は私はバカだった。

 ただ自分勝手でわがままで、そのくせ弱虫。

 波琉がかけてくれた優しい言葉ですら拒絶した。

「ずっと一緒にいるからこそ、大事なものって見失いやすいのかも。それが当たり前になっちゃって。だから」

 私が言ってあげなきゃ。

 気付かせてあげなきゃ。

「八城さんはダメだよ、昔の私みたいになったら」

 陸先輩のためにも、どうか――

「言われなくても誰がなるかよ、お前みてぇな弱虫に」

 八城さんはふっと笑って、私のおでこの辺りを指で軽く小突く。

「でも、ありがとうな、美海」

 それは初めて彼女が私のことを名前で呼んでくれた瞬間だった。