わけもわからないまま私が連れてこられたのは、なんとまさかの八城さんの家だった。

「ちゃっちゃとしろよ、家の床が濡れる」
「そ、そ、そ、そうは言われましても……」
「いいから、先にシャワー浴びてこい! お前はただでさえほそっこくて、貧弱そうなんだから」

 ひ、貧弱……。

 事実かもしれないけど、そんなにドストレートに言われると流石に傷付く。

「ワタシは自分の部屋にいるから、階段上がってすぐ右な」
「え、えぇ、ちょっと八城さん!」

 簡単な説明だけすると、八城さんは私を浴室において行ってしまう。

 有無を言わさぬ形相だった。

 一体全体なにをどう間違ったらこんな展開になるんだろう。

 残された私は浴室一人頭を抱えた。

 とはいえ、シャワーを使わせてもらえるのは正直、ありがたい。

 このままの濡れた状態で、帰るわけにもいかなかったし。

「八城さんって意外と親切なのかも……」

 上のTシャツを脱ぎながらひとりごとをこぼしていると、浴室の引き戸が開いた。

「わぁぁぁぁぁ!!」

 思わず、浴室内で絶叫してしまった私。

「驚きすぎだろ」

 またも八城さんから白い目を向けられる。

「あ、開けるなら言って……恥ずかしいから」
「別に女同士だからよくね。てか別に見られて減るもんでもねぇだろ」

 ぶつぶつと文句を垂れる私に八城さんはめんどくさくなったのか、乾燥機自由に使っていいからとだけ言いおいて浴室を出ていった。
 

 数十分後。

「や、八城さん? その、シャワーありがとう。それから乾燥機も」

 部屋のドアをノックすると、驚くことに八城さんは海に落ちた時と同じ濡れたままの格好で出てきた。

「き、着替えてなかったの?」
「あー……なんか、考え事してて」

 疲れているのか、八城さんの目はちょっと虚ろげだった。

 なんだか申し訳ない気分になる。

「適当にその辺、座ってて」
「あっ、うん……わかった。けど、親御さんとか大丈夫なの? 勝手に上がりこんで迷惑じゃない?」
「……別に平気。二人とも仕事で忙しいから遅くまで帰ってこねぇの」
「そ、そうなんだ」

 なんだろう。

 親御さんのことを聞いた時、心なしか八城さんの表情が一瞬、暗くなったような気がした。