陽炎が揺らめく炎天下。
今朝、読書感想文の課題が出ていたことを思い出した私は、水ヶ島一番の大きさと蔵書数を誇る市の図書館に足を運んだ。
そういえば小学生の時も、波琉とよく一緒に来たっけ。
なつかしいなぁ。
決して、私は読書がそんなに好きだったわけじゃない。
ただ夏休みが終わるギリギリまで宿題をためこんだあげく、読書感想文に何を書けばいいかわからないと泣きつく私に、波琉が一緒にやろうと毎年のように連れてきてくれた。
今思えば、彼もよく付き合ってくれていたなと思う。
同時にますます波琉に頼りっぱなしだった昔の自分が、情けなく思えた。
「あれ、美海ちゃん?」
「陸先輩!」
図書館の入り口で、誰かに呼ばれた気がして振り向くと、そこには私服姿の陸先輩が立っていた。
「ああ、やっぱり美海ちゃんだ」
今日も爽やかな笑顔がまぶしい陸先輩は、ブルーのストライブシャツに細身の黒のスラックスと、なんだかいつも以上に大人っぽさがまして見える。
対する私は白のショートパンツに、なんの変哲もないTシャツ。まるで休日の小学生みたいな格好なので、陸先輩と並ぶと少々、不釣り合いな気がしてならない。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「ああ、実は波琉のお見舞いに行った帰りでして」
「そっか……やっぱり、まだ」
少し言いにくそうにする陸先輩に、私は無言でうなずく。
それがなんのことを言っているのかなんて、言葉にするに及ばなかった。
「ところで、陸先輩も本を借りにいらしたんですか?」
これ以上はぎくしゃくとした雰囲気を続けたくなくて、私は話題を変える。
「ああ、うん、よくわかったね」
「以前、廊下で会った時も図書室によった後のように見えたので。陸先輩って、読書が好きなんですか?」
「そうだね。前にも言ったけど、僕って波琉くんと会うまでは本当に根暗な人間だったからさ。一緒に遊ぶ相手もいなくて、学校の休み時間なんか大半は図書室に入り浸ってたから」
陸先輩は涼しい顔で笑っているけれど、なんだか聞いてしまって申し訳ない気分になった。
なにかいい話題、ないかなぁ。
私は頭をフル稼働させる。
頑張れ、私のトーク力! (コミュ症だけど)
「なにかおすすめの本とかってあります? 読書感想文の参考にしたくて」
必死で考えたものの、結局、そんなありきたりなものしか思い付かなかった。
「んー、そうだなぁ」
陸先輩はあごに手を当てて、少し考えるようなそぶりを見せる。
「ここ最近で読んで面白かったのは風土記かな」
「ふ、風土記?」
「うん、この島のね」
予想の遥か斜め上をいく回答に、思わず声がちょっと上ずった。
「風土記って、どんなことが書いてあるんですか?」
第一、高校生が読むものなのかとツッコミたくなったけれど、ここではぐっとこらえておく。
「主に歴史とか、土地に関することだよ。後は水ヶ島にまつわる伝承とか」
「伝承、ですか」
「気になる?」
「ほ、ほんの少しだけ。実は以前、波琉にも不思議な話をされたもので」
「不思議な話?」
「はい……陸先輩も知ってると思いますけど、水ヶ島神社の鳥居って青いじゃないですか。でも実はあの鳥居って、元々は白かったらしいんです」
「ああ、それはきっと”霊海伝説”のことだね。確か、風土記にも書いてあったよ」
「な、なんですか、それ」
「幽霊の霊に海って書いて霊海伝説。知る人ぞ知る水ヶ島の言い伝えみたいなものだよ。なんでもあの鳥居は死者の世界に繋がってるっていわれてるんだ」
「えぇっ!? し、死者の世界ですか?」
「面白いよね、僕も読んでて興味をそそられた。っていっても、二ヶ月くらい前に読んだものだから詳しい内容はあいまいなんだけど」
なんだか話がとんでもない方向に飛躍していっている気がする。
それに私にはちょっと、陸先輩の言う面白いには共感できないと思った。
今朝、読書感想文の課題が出ていたことを思い出した私は、水ヶ島一番の大きさと蔵書数を誇る市の図書館に足を運んだ。
そういえば小学生の時も、波琉とよく一緒に来たっけ。
なつかしいなぁ。
決して、私は読書がそんなに好きだったわけじゃない。
ただ夏休みが終わるギリギリまで宿題をためこんだあげく、読書感想文に何を書けばいいかわからないと泣きつく私に、波琉が一緒にやろうと毎年のように連れてきてくれた。
今思えば、彼もよく付き合ってくれていたなと思う。
同時にますます波琉に頼りっぱなしだった昔の自分が、情けなく思えた。
「あれ、美海ちゃん?」
「陸先輩!」
図書館の入り口で、誰かに呼ばれた気がして振り向くと、そこには私服姿の陸先輩が立っていた。
「ああ、やっぱり美海ちゃんだ」
今日も爽やかな笑顔がまぶしい陸先輩は、ブルーのストライブシャツに細身の黒のスラックスと、なんだかいつも以上に大人っぽさがまして見える。
対する私は白のショートパンツに、なんの変哲もないTシャツ。まるで休日の小学生みたいな格好なので、陸先輩と並ぶと少々、不釣り合いな気がしてならない。
「こんなところで会うなんて奇遇だね」
「ああ、実は波琉のお見舞いに行った帰りでして」
「そっか……やっぱり、まだ」
少し言いにくそうにする陸先輩に、私は無言でうなずく。
それがなんのことを言っているのかなんて、言葉にするに及ばなかった。
「ところで、陸先輩も本を借りにいらしたんですか?」
これ以上はぎくしゃくとした雰囲気を続けたくなくて、私は話題を変える。
「ああ、うん、よくわかったね」
「以前、廊下で会った時も図書室によった後のように見えたので。陸先輩って、読書が好きなんですか?」
「そうだね。前にも言ったけど、僕って波琉くんと会うまでは本当に根暗な人間だったからさ。一緒に遊ぶ相手もいなくて、学校の休み時間なんか大半は図書室に入り浸ってたから」
陸先輩は涼しい顔で笑っているけれど、なんだか聞いてしまって申し訳ない気分になった。
なにかいい話題、ないかなぁ。
私は頭をフル稼働させる。
頑張れ、私のトーク力! (コミュ症だけど)
「なにかおすすめの本とかってあります? 読書感想文の参考にしたくて」
必死で考えたものの、結局、そんなありきたりなものしか思い付かなかった。
「んー、そうだなぁ」
陸先輩はあごに手を当てて、少し考えるようなそぶりを見せる。
「ここ最近で読んで面白かったのは風土記かな」
「ふ、風土記?」
「うん、この島のね」
予想の遥か斜め上をいく回答に、思わず声がちょっと上ずった。
「風土記って、どんなことが書いてあるんですか?」
第一、高校生が読むものなのかとツッコミたくなったけれど、ここではぐっとこらえておく。
「主に歴史とか、土地に関することだよ。後は水ヶ島にまつわる伝承とか」
「伝承、ですか」
「気になる?」
「ほ、ほんの少しだけ。実は以前、波琉にも不思議な話をされたもので」
「不思議な話?」
「はい……陸先輩も知ってると思いますけど、水ヶ島神社の鳥居って青いじゃないですか。でも実はあの鳥居って、元々は白かったらしいんです」
「ああ、それはきっと”霊海伝説”のことだね。確か、風土記にも書いてあったよ」
「な、なんですか、それ」
「幽霊の霊に海って書いて霊海伝説。知る人ぞ知る水ヶ島の言い伝えみたいなものだよ。なんでもあの鳥居は死者の世界に繋がってるっていわれてるんだ」
「えぇっ!? し、死者の世界ですか?」
「面白いよね、僕も読んでて興味をそそられた。っていっても、二ヶ月くらい前に読んだものだから詳しい内容はあいまいなんだけど」
なんだか話がとんでもない方向に飛躍していっている気がする。
それに私にはちょっと、陸先輩の言う面白いには共感できないと思った。