「波琉はあの日、車に轢かれそうになった私を庇ったんです。それでこんな状態に……」

 学校を出た後、私達は波琉がいる病院を訪れていた。

「私、いつも一人じゃ何もできなくて。だから、昔からずっと波琉に助けてもらってばっかりでした。それがまるで当たり前みたいに思ってて、波琉の優しさにずっと甘えてたんです」

 ベッドの上で眠っている波琉の手を握る。

 かすかな彼の体温を感じた。

「なんで今まで気付かなかったんでしょうね」
 
 自分の唇をぎゅっと噛む。そうでもしないと、陸先輩の前でまた泣いてしまいそうで。

「波琉くんはきっと、美海ちゃんのことが大好きなんだよ」
「へ?」
「前にもよく話してくれたんだ、美海ちゃんのこと」
「波琉が、ですか?」
「うん、それに感謝してるって」
「そんなことないです。だって、私は波琉をいつも困らせてばっかりで」
「それは美海ちゃんがそう思ってるだけだよ」

 陸先輩のメガネの奥の柔和な瞳が、私に向かって優しく微笑みかける。

「いつも俺のこと信頼してついてきてくれる美海が、どうしようもなく可愛くて、たまにちょっと目が離せないところも、全部含めて大好きなんだって。波琉くん、前に得意げに語ってくれたよ」

 実際に波琉の声を聞いたわけじゃないのに、彼の言葉が脳内で再生されていく。

 あっ……。

 目からこぼれた大粒の涙が頬を伝って、ベッドの上の真っ白なシーツに透明なしみを作った。

「す、すみませんっ」
「ううん、かまわないよ。だって、それは美海ちゃんも波琉くんを同じくらい大切に思ってるっていう証拠だから」

 よかったら、これ使ってと涙ぐむ私に陸先輩はそっとハンカチを差し出してくれた。