「そういえば、八城さんと陸先輩って知り合いなんですか?」
さっきからずっと気になっていたので聞いてみる。
「んー、まぁ一応はそういうことになるのかな」
「というと?」
「一学期の最初の頃にたまたま廊下で見かけて、それからずっと事あるごとに注意してるんだ」
「あー、なるほど……そういうことだったんですね」
納得だった。言われてみれば、さっきも陸先輩と話している最中の八城さんはちょっと面倒くさそうにしていたから。
「なかなか言うことを聞いてくれないから、骨が折れるよ」
「それは、大変そうですね……」
正直、私からするとあの八城さんに口出しできること自体がすごい。
私には絶対、無理だ。
「美海ちゃんは八城と同じクラスなの?」
「あ、いえ、今は違います。小学校の時、一回だけ話したことはあるんですけど」
そのたった一回が原因で私は不登校になったあげく、まさかあんなことになるなんて……。
流石にまだ陸先輩には言えないなぁ。
* * * * *
八城さんとのことがあった次の日、私はお腹が痛いからとお母さんに嘘をついて学校を休んだ。
いけないことだってわかってたよ、そりゃ……。
だから、最初は一日だけにするつもりだった。
けれど、次の日も、そのまた次の日も、私は自分の部屋にこもり続けた。多分、お母さんもお父さんも波琉も、みんな本当は私が体調不良なんかじゃないことには薄々気付いてたと思う。
それでもお母さんやお父さんは、いつまで経っても学校に行こうとしない私をとがめたりしなかったし、何があったと深入りして聞いてくることもなかった。
「美海、まだ体調よくならない?」
「……」
私が学校に行かなくなってから波琉は心配して、毎日のように私の家に来てくれた。けれど、当時の私はすっかり塞ぎこんでしまっていて、波琉と話す時はいつも部屋のドア越しだった。
「この前、読んだ漫画がめっちゃ面白くてさ、美海も読まない?」とか、
「新発売のゲーム、昨日買ってもらったんだ。美海も一緒にやらない?」とか。
今みたいになんてことはないくだらない話も波琉はたくさんしてくれたし、何度も私を遊びに誘い出そうとしてくれた。
でも、私はろくな返しもしないで黙って聞いていることがほとんどだった。
「美海、今日もダメ?」
「……」
自分でも何をそんなに意地になっているんだろうと、いい加減、少しは思い始めていた。
たった一回、クラスメイトに笑われたくらいで傷付いて。それもテストができないのは、単なる自分の努力不足で。
結局、全部、自分が悪いんじゃんって思った。
「ねぇ、美海」
「……」
「やっぱり俺、教えてほしいんだ。おばさんもみんな心配してる。学校で何かあったんだろ?」
「……別に」
その日の波琉はいつもと違って、なかなか引き下がろうとしなかった。
「お願い、美海、話してくれない? 幼なじみだろ、俺達」
今思えば、この時、素直に全部、打ち明けてしまえばよかったんだ。
でも、できなかった。
「……ないよ」
「えっ?」
「波琉に話すようなことなんて……なんにもない」
「それは……俺と話したくないってこと?」
「……そうだよ」
開いた口から出てきたのは、まるで事実とは正反対の天邪鬼な言葉だった。
「だからもう、来なくていいよ」
自分でも本当にどうかしていたと思う。いくらなんでも、毎日心配して来てくれる幼なじみに対して言うべき言葉じゃない。
多分、きっとそれは嫉妬だった。
本当は普段から、私の心の奥底で小さいながら根付いていたもの。
それがその時、私の中でドス黒い感情となって表に出てきたんだろう。
波琉は私と違って優秀だから、私の気持ちなんて話したところでどうせわからない。
そんなふうに思えてしまった。
* * * * *
さっきからずっと気になっていたので聞いてみる。
「んー、まぁ一応はそういうことになるのかな」
「というと?」
「一学期の最初の頃にたまたま廊下で見かけて、それからずっと事あるごとに注意してるんだ」
「あー、なるほど……そういうことだったんですね」
納得だった。言われてみれば、さっきも陸先輩と話している最中の八城さんはちょっと面倒くさそうにしていたから。
「なかなか言うことを聞いてくれないから、骨が折れるよ」
「それは、大変そうですね……」
正直、私からするとあの八城さんに口出しできること自体がすごい。
私には絶対、無理だ。
「美海ちゃんは八城と同じクラスなの?」
「あ、いえ、今は違います。小学校の時、一回だけ話したことはあるんですけど」
そのたった一回が原因で私は不登校になったあげく、まさかあんなことになるなんて……。
流石にまだ陸先輩には言えないなぁ。
* * * * *
八城さんとのことがあった次の日、私はお腹が痛いからとお母さんに嘘をついて学校を休んだ。
いけないことだってわかってたよ、そりゃ……。
だから、最初は一日だけにするつもりだった。
けれど、次の日も、そのまた次の日も、私は自分の部屋にこもり続けた。多分、お母さんもお父さんも波琉も、みんな本当は私が体調不良なんかじゃないことには薄々気付いてたと思う。
それでもお母さんやお父さんは、いつまで経っても学校に行こうとしない私をとがめたりしなかったし、何があったと深入りして聞いてくることもなかった。
「美海、まだ体調よくならない?」
「……」
私が学校に行かなくなってから波琉は心配して、毎日のように私の家に来てくれた。けれど、当時の私はすっかり塞ぎこんでしまっていて、波琉と話す時はいつも部屋のドア越しだった。
「この前、読んだ漫画がめっちゃ面白くてさ、美海も読まない?」とか、
「新発売のゲーム、昨日買ってもらったんだ。美海も一緒にやらない?」とか。
今みたいになんてことはないくだらない話も波琉はたくさんしてくれたし、何度も私を遊びに誘い出そうとしてくれた。
でも、私はろくな返しもしないで黙って聞いていることがほとんどだった。
「美海、今日もダメ?」
「……」
自分でも何をそんなに意地になっているんだろうと、いい加減、少しは思い始めていた。
たった一回、クラスメイトに笑われたくらいで傷付いて。それもテストができないのは、単なる自分の努力不足で。
結局、全部、自分が悪いんじゃんって思った。
「ねぇ、美海」
「……」
「やっぱり俺、教えてほしいんだ。おばさんもみんな心配してる。学校で何かあったんだろ?」
「……別に」
その日の波琉はいつもと違って、なかなか引き下がろうとしなかった。
「お願い、美海、話してくれない? 幼なじみだろ、俺達」
今思えば、この時、素直に全部、打ち明けてしまえばよかったんだ。
でも、できなかった。
「……ないよ」
「えっ?」
「波琉に話すようなことなんて……なんにもない」
「それは……俺と話したくないってこと?」
「……そうだよ」
開いた口から出てきたのは、まるで事実とは正反対の天邪鬼な言葉だった。
「だからもう、来なくていいよ」
自分でも本当にどうかしていたと思う。いくらなんでも、毎日心配して来てくれる幼なじみに対して言うべき言葉じゃない。
多分、きっとそれは嫉妬だった。
本当は普段から、私の心の奥底で小さいながら根付いていたもの。
それがその時、私の中でドス黒い感情となって表に出てきたんだろう。
波琉は私と違って優秀だから、私の気持ちなんて話したところでどうせわからない。
そんなふうに思えてしまった。
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