🌊 海の未来 🌊 ～新編集版～

　ひとしきり食べてお腹いっぱいになって幸せな気分になると、久しぶりに音楽が聴きたくなった。
　CDを収納している本棚を覗き、今の気持ちに合う音楽を探した。
　
　なんか解放されている感じだし、穏やかな感じなので、ロックじゃなく、ジャズでもなく、〈温かい音がいいな〉と思いながら一枚一枚抜き出しては元に戻す動作を繰り返した。
　
　そうしているうちに、エレキの音ではなくて生の音がいいような気がしてきた。
　するとアコースティック・ギターの音色が頭の中に流れてきた。
　その瞬間、探していた指が止まった。
　彼のギターと歌しかない。
　取り出したCDの表紙を見て頷いた。
　
　しかし、すぐに聴くことはしない。
　音楽を聴く前にすることがあるからだ。
　今日の気分と音楽に合うお酒の準備だ。
　食器棚にしまっていたウイスキーとグラスを取り出し、氷と炭酸を冷蔵庫から出して、ハイボールを作った。
　そして、ジェイムス・テイラーのCDをプレーヤーにセットし、再生ボタンを押した。
　
　大好きな曲が流れてきた。
『Youve Got a Friend』
　邦題は『きみの友達』
　1971年に全米第1位を記録した大ヒット曲で、作者はキャロル・キング。
　ギターのアルペジオで始まるシンプルなイントロに導かれて彼の優しい歌声が心の中にスッと入ってきた。
〈君は一人じゃない、私がいるよ、いつでも飛んでいくよ〉と、困難な状況に陥って助けが必要な友人に囁きかけるような歌声がしみ込んできた。
　すると、なんか温かいもので心が満たされたようになり、とってもいい感じになってきた。

　演奏が終わると、オリジナルが聴きたくなった。
　この曲は元々キャロル・キングが自身のアルバムに収めるためにレコーディングをしていたものなのだが、それを友人である彼にプレゼントして先に発売させたという逸話が残っており、その優しさに触れたくなったのだ。