で、会議室の鍵を閉めるのに、少しだけ待っていてもらい、葉子の元に戻ると…。


そこには、不穏な空気が流れていた。



「ねぇー?永井さぁん?あーんな冷たくて面白くないヤツなんか止めてさぁ?オレと付き合おうよ〜?」


つーか、ヤンキーなお前と俺を一緒にすんな。
そんでもって…。
俺の何よりも大切な葉子に、それ以上近寄るな。
壁際にジリジリと追い詰めて、葉子に迫る、ヤンキー男。
葉子は、必死に抵抗している最中だった。




「っ、ごめんなさい。それは出来ません」

「なーんでよ?オレ優しいよー?」

「や、やめて!」


知らない男と話してんのも嫌なのに、告白のなんか冗談じゃない。

俺は、ムカムカしながら足早にその場まで行くと、葉子のことを後ろからがっちり抱き込んで、相手を冷ややかな視線で射抜く。


「悪いけど、この子、俺のなんで。つか、なんか用あんの?」


と、ムカムカを全てぶつけるようにして、睨み付けた。

すると、さっきまで楽しげに葉子に話し掛けていたヤンキー男子は、引きつった顔をしながら、


「じょ、冗談だよ、冗談。そんな顔すんなって」


と、逃げて行った。


逃げるくらいなら、最初から告白…この場合はナンパ?しなければいい。


本当に、こういう時「氷」とか呼ばれてることが、大いに役に立つ。


完全にいなくなったことを確認して、葉子をみると小刻みに体が震えていた。

余程、怖かったんだろうな。



「あの……光樹くん…助けてくれてありがとう…」


そう、蚊の鳴くような声で葉子が言った。
今にも泣いてしまいそうな声。
俺は胸がぎゅーっと痛くなる。


「大丈夫?」

「うん、光樹くんがすぐに来てくれたから」


と、顔を赤く染める葉子は……殺人的に可愛い。


あー…くそ。
マジで、めっちゃ可愛過ぎる。


そんな風に思って、俺は葉子の首筋辺りに、はぁーと大きくて深い溜息を吐きながら肩の辺りにグリグリと顔を埋めた。


「み、光樹くん…?」

「俺がいるのに、告白なんか受けないでよ、葉子のクセに生意気…」


なんて、ちょっと拗ねたように言うとすぐさま、


「ご、ごめんね?」


なんて慌てて返されて、愛おしくなる。


「はは。うーそ。ほんと、怖ったよね?さ、気分換えて、デートしよっか。さてと…何処か行きたいとこある?」


と、手を繋いだ。



気を抜くと、本当にムリ。

葉子の可愛さにヤラれてる奴らは、わんさかいるから…。
クラスメイトの男子からプリントを手渡されてるってだけでも、イライラするのに。


『なんで、俺は葉子と同じクラスじゃないんだ!』

と、駄々をこねそうになる程。
AクラスとCクラスじゃ、距離も遠過ぎるから、牽制の為にも毎休み時間毎に、自分から葉子に会いに行く。

その時に、うろちょろしてる女子に何だかんだと声を掛けられるけど、そんなの煩いだけで邪魔だとしか思わない。

用があるのは、葉子だけで俺の視界は他のモノなんて、何も入らない。
余計な雑音も耳に入らない。


それなのに…どこまでも天然で、鈍感な葉子は、自信なさげにいつもうつむき加減でいるから、奴らの視線なんて何一つ感じていなくて…。

だから、冗談交じりの爆弾発言。


「ねぇ…葉子?」

「ん?なぁに?光樹くん?」

「明日から監禁してもいい?」

「…へぁ?!」

「うそうそ。んー本音はちょっとあるけどね…葉子の自由を奪おうなんてしないから、大丈夫だよ?」

にっこり笑ってみたのに。


「み、光樹くん…。顔が全然笑ってないよ?」

と、言われてしまった。


本当に、本当に、ヤンデレになりそう…ヤバいぞ、俺。

そんなわけで、俺の彼女は全く平凡な女の子なんかじゃないのです。