生徒室から人もまばらな教室に戻って、自分の席に座り込む。

この間席替えしたばかりの私の席は、ラッキーにも窓側の最後尾。


そこで、机に頬杖をつきながら、ボーッと一人考えた。


光樹くんは、学園一のイケメンで頭も良い。
生徒会長をしていて、本当に格好良くて、皆からモテる。
でも、…何故か「氷の王子様」と呼ばれていて、兎に角俺様なんだって友達は皆そう言うんだ。


そんな人と、なんで付き合うことになったのか…、それは彼からの熱烈な告白からスタートした。


実は私には…まだ光樹くんにも誰にも言えていない秘密がある。
それは、一年の頃少しだけいいなぁと思っていた人がいたのだけれど、忘れ物をした時に自分の教室で、何人かの男子グループの中にその人がいて、それで『永井葉子って、なーんか鈍臭いよなー』なんて言われていた事がきっかけで、それから人を好きになる事に臆病になっていたという事。


確かに、私は他の女の子からしたら鈍臭いし、可愛くもない…。


だけど。
そんな私なのに。


「葉子がこの世の中で、一番可愛いよ」


って、光樹くんはそう毎日伝えてくれるんだ。

彼はなんで周りから、氷の王子様だなんて呼ばれているんだろう?
どうして、私だけに優しいんだろう…。


どうしてそんな疑問が浮かぶのかと言えば、光樹くんは、私以外の人に対して本当に辛辣な人だから…。


光樹くんは、私に対してとっても優しいけど…その優しさが何処から生まれてきているのかは果てしなく謎。


だって、少し前の昼休み。
約束していた場所に行こうと歩いていたら、真っ赤になって光樹くんに告白している女の子を見掛けて…その子は所謂カースト上位にいるような綺麗な女の子で、私とは丸っきり正反対な子だったから、やっぱり光樹くんはモテるんだ、ってツキンと胸が痛んだ。
でも、そんな彼女に対して、光樹の目は全く笑っていなくて、物凄く面倒臭そうに、


「はぁ?あんた、ばかなんじゃねーの?俺、彼女持ちだけど?」


と冷たく言い放ち、それでも…と懇願するその子に向かって、


「ちっ。いい加減にしろよ。しつこいな」


更には、私のことを悪く言ったその子に向かって、


「その頭、無駄についてんの?脳みそよーく動かしてから物事考えろよ。これで、葉子になんかしようとしたら…あんたの事、潰すから」



と、踵を返した。




そんな彼を見て驚いていた私を見つけるなり、光樹くんは軽やかに歩み寄ってきて。


「あ、葉子〜、見つけた!…探してたんだよ?さぁ、お昼一緒に食べよっか!今日のお弁当なぁに?」


なんて、とびきりの笑顔。
そのキラキラさに、目眩がしそうになる。


「み、光樹くん、人が見てるっ」


他の人なんてまるで眼中にないってくらい、甘い声で私のことを呼んで、持っていたお弁当ごとぎゅうっと抱き締めてくる。


「んー!葉子ってば、そんな可愛い顔しちゃ駄目。他の奴に見られちゃうじゃん」

「か、可愛くないよ〜」

「もうー。ほんとに自覚ないんだから。葉子は可愛いよ。もっと自信持って?…まぁ、他の奴に取られたくないから、これ以上可愛くなられたら困るけどね」


甘い甘い言葉の連鎖。
なんでこの人は恥ずかし気もなく、ストレートにこんなことが言えてしまうんだろう?


そこまで思ってから。


やっぱり…慣れているからなの、かな…。


なんて、ちくり、とする胸。


なんでこんな風に思うのか、分からないけど…。
光輝くんからそう言われると、嬉しいと思う反面、なんだかとっても不安になって、胸の真ん中が苦しくなるんだ。