そう思うばかりの、日々。
そして、贅沢過ぎる夢のような放課後を過ごした翌日。




きーんこーん

ちょっと調整がズレてる終業ベルが校内に鳴り響き、私はんー!と小さく背伸びをした。

なんだか光樹くんと付き合うようになってから、時間が経つのが早い気がしてならない…。




「ねぇ?葉子?王子様とは、その後どうなの?」


ざわざわと風で揺れる校庭の木々。
それを遠目で眺めていたら、親友のよっちゃんこと佳乃ちゃんが、私の前の席にドカッと座って来て、そんなことを聞いて来た。


放課後のなんとも言えないのんびりした時間。
本来ならば、私の前の席には津川さんという女の子が座っているはずなのに、今日はどうやら風邪を引いてしまったらしく終始空いていた。

ん?あれ?それとも早退したんだっけ…?

そんなことを思いながらも、よっちゃんの滅茶苦茶真面目な顔に圧倒されて、私はどもり気味に、


「ど、どうって…?」


と返事をする。


よっちゃん、本当に顔が真剣過ぎて…怖い。



急な質問に戸惑う私。


だって…「どう?」って…?


すると、よっちゃんは「はぁ…」と一つ溜息を吐いてまじまじと私の顔を見る。


「上手くいってんのかって聞いてんの!」

「う、うん」

「イジメられたりしてない?」

「!光樹くんはそんな人じゃないよ?」


速攻で、否定する私に、よっちゃんはちょっと意外そうな顔をする。


「本当に?」

「本当だよ!…それよりも…なんで光樹くんは"氷の王子様"なんて言われちゃうんだろう…?」


うーん?と悩む私に呆れ顔なよっちゃん。


「…のろけかよ」

「ち、ちがっ!そんなんじゃなくて。本当に本当に光樹くんは優しいから…なんでかなって…」


そう心底謎だと言いたい私を見て、よっちゃんは長くて細い足を組み替える。


「そーぉ?そんなの葉子の前だけじゃん?あいつ、ぶっ飛んだドSだと、私は思うわ…」


はぁ…と深い溜息を吐いて、よっちゃんは綺麗に切り揃えられたサラサラのショートヘアを揺らした。


「でも…」

私は小さく呟く。
それに対して、よっちゃんは聞き漏らさず返事をしてくる。


「…何?」

「う、ううん。なんでもない」

「ちょっとー?なんなのよー?…まぁ、葉子が幸せだっていうなら、それでいいんだけど…」

「よっちゃん…ありがと」

「いーえ。あ、彼氏呼んでる。じゃあ葉子、またねー」

「うん、またね!」


そんな会話を一通りしたあとで、私は黒板の前に立って何かを言い合いながら、ふざけてるクラスメイトを少しだけ見つめてから、すぐに視線を未だ揺れてる校庭の木々に移した。


雲一つない秋の高い高い抜けるような空。
強い風は、漸くやってきた台風のせいなのか、とても生温い。

私はなんだか気持ちがふわふわと浮くような感覚に襲われる。
光樹くんのことを思えば思うほど、よく分からない胸の高鳴りを、感じて目眩がしそうだ…。

そして、そのまままた溺れそうな感覚に陥る…。



そう思いながら、席を立って廊下に出た。
今日も光樹くんは、生徒会のお仕事で忙しいみたいだから
、私から向かいに行こう…。
なんで、クラスが違うのかな…。
勿論、寂しくないようにって、毎休み時間毎に、光樹くんは私のクラスに来てくれるけれど…やっぱりそれだけじゃ足らないよね…。


そんなことを思っていたら、不意をついて担任に大きな声で呼ばれてしまった。


何事かとちょっとびっくりしながら近寄ると、にっこり笑って明日使うプリントを資料室から教員室まで運んでくれと頼まれる。


別にこれと言って断わる理由もなかったから、「分かりました」と言って、そのまま資料室へと向かう。




…こんな風にドキドキするのも全部、光樹くんのせいなんだから…と思う。
半分八つ当たりなんだけど。

だって、大きな声を出して叫びたい時があるんだもの…。


「光樹くんは皆が思っているような人なんかじゃないんだ!」って。

だけでも、それは光樹くんの気持ちに反することなのかなと思うと、何も言えなくなる。


もう一度だけちらりと見た空はほんの少し…どこから流れてきたのか分からない雲で薄く覆われていて、私はまた一つ溜息を吐いた。


光樹くん、なんで私のことを好きになってくれたの?

氷、だなんて全然思えない。



何時だって優しさを与えてくれる人。
愛しくて愛しくて、格好良くて困るほどだから、私は貴方の本当の姿が知りたいだけ…。