ここは誰もいない、金曜日の生徒会室。



「いや、なの?」

「や、じゃない、よ?」


いつもの、放課後…その中で起こる攻防戦。


私、永井葉子(ながいようこ)は、現在、学園一イケメンで「氷の王子様」と称され…それと同時に私の彼氏である一条光樹(いちじょうみつき)くんの膝の上に、ちょこんと座らされている。


「だって…流石にこれは…恥ずかしいよぉ…」


そう言って音を上げる私に、光樹くんはくすくす楽しそうに笑う。


「毎日してるのに?」

「ま、毎日してても!」

「んー…葉子は、ほんとに恥ずかしがり屋だなぁ…。まぁそんなトコも好きだけど」



そう言って、私のおでこにキスをした。


ちゅ


当然私の顔は瞬時に赤くなる。
それを見て、更に楽しげに笑う光樹くん。





「あはは!葉子、顔真っ赤!かーわいっ」

「も、もう!光樹くん!」

「ごめんごめん。怒った?」

「…知らない」

「じゃあさ、これあげるから、許して?」



そう言って光樹くんが手元の箱から出したのは…私の大好きな、真っ赤に熟れたいちごの大きな粒。



「あ、ありがと…」

「はい、あーん」

「……っ」


男の人とは思えないくらい綺麗な指が、遠慮なく私の口唇を撫でて、私が口を開くのを促す。


「あ、あー…ん……」


恥ずかしさでいっぱいいっぱいになりそうだったけど、大好きないちごの誘惑には勝てずに、口を開いてしまった。


「葉子、かわい……」


ぎゅうっ


抱き締められると、同時にそっと触れるだけのキスを落とされ、心臓がバクバクして、目眩がするほど苦しくなるのに…。

がちゃん


突然回されたドアノブ。
其処から顔を出したのは、光樹くんの…親友で、光樹くん曰く【悪友・ただの腐れ縁】という、副会長の中島くんだった。



「お、光樹ー、なんだ…ここにいたのかよー。何気に探したんだぞー?」

「あぁ?中島、勝手に人のイチャイチャタイム、ぶっ壊してんじゃねぇよ」

「きゃー、怖い怖い。ほーんと永井さん以外には容赦ねぇのな」

「ちっ…人の彼女の名前気安く呼ぶな」


そうなんです。
光樹くんは、口が悪い。
……それも何故か、私以外には……。


「葉子、ごめんね?折角二人きりになれたのに…」

「う、ううん!」

「そこは"嫌"って我儘言ってくれてもいいのに」


そんなことを言うと、私を優しく膝から降ろして、そっと頭を撫でた。


「名残惜しいけど、これから会議なんだ。定時で終わると思うから、待っててくれる?今日も一緒に帰ろう?」

「う、うん」

「ん。いい子」


ぽんぽん、と大きな手で私を撫でて、私を生徒会室から外へと送り出す。
その間も、私の手をきゅっと握り締めて…。


「永井さんてば愛されてんなー」

「だから、人の彼女を気安く呼ぶなよ」


そんな中島くんとの会話を背中に感じつつ、私は自分の教室に戻った。