【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 ──ざー、ざぱーん。ざー、ざぱーん。



 始まりの日。令和四年五月十七日。火曜日。

「いえーい、アラカブまた一匹ゲットー」
「たいようばっかりずるいぞ、僕だって!」

 僕とたいようは地元の小学校に通う小学三年生。

 たいようのお父さんに連れられて、念願(ねんがん)の釣りデビュー。
 だってお父さんったら、一度も釣りに連れて行ってくれないんだもん。

 今日の「勝負」は、ずばり釣り対決だ。
 どっちがたくさん釣れるか。
 どっちが大物を釣れるか。
 シンプルな勝負でしょ。

 でも、足元にある水の入ったバケツには。
 たいようの方にしか魚がいない。

「むう、また餌だけ持っていかれたー」
「はは、あお、超へたー!」

 思ったより釣りは難しかった。

 おかしいなあ。
 僕の予定だと、バケツたっぷりお魚釣って、今晩お母さんにおさしみにしてもらうはずだったのに。

「まただー」
「ぎゃははは」

 失敗するたびに笑うたいように、だんだん腹が立ってきた。

 あ。
 またたいように魚がかかった。

 なんだろ、銀色でぴかぴかしてる。

「見せてよ」
「だーめ、あお、盗る気だろ」
「そんなことしないよ」

 でも、たいようは見せてくれない。

 見せてよ。やだよ。見せて。やだ。
 だんだん、釣りそのものがつまらなくなってきてしまった。

「いいもん、僕はあっちで釣る!」
「なんだよ、ビビリ、逃げんのかー?」

 かちん。
 釣果(ちょうか)で負けていた僕は、この一言にとても腹を立てた。