【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 二年と八十七日目。令和六年八月十四日。水曜日。

 ミーンミンミンミン──……。

 今日も九州地方は朝から猛烈に暑い。
 天気予報では、福岡は三十九度になるとか。

 温暖化(おんだんか)のことは習ったけど、こんなにも暑いとそれも本当なんだな、と怖くなる。
 僕が大人になるころ、日本って、地球って、一体どうなってしまうんだろうか。

「はーい、じゃあ、おすずちゃん、おねえさんね」

 僕は残りのさんすうの宿題をがりがりと頑張っている。

「はあい、花子ちゃん、今日はおでかけ、しましょうねえ」

 あと十ページだ。
 我ながらいいペースだと思う。

「ぼくは、おにいさんかな」
「えへへ、そーねー、いっしょにおでかけ、しようよ」

 むむむ、でもこの割り算の計算が難しい。

「らんらんらん、みんなでおでかけ、楽しいなー」

 むむむむ、約分の概念(がいねん)が未だに理解できない。 

「あたし、おかあさんでいい?」

 むむむむむ……。

「いーよー。瞳さん」

「うるさーい! 勉強の……」

 みんながきょとんとした顔でこちらを見ている。

 勉強のじゃまだよっ。
 そう叫ぶつもりだったんだけど。

 聞き覚えのない名前が聞こえた気がした。

「いま、なんて?」
「なんてって?」

 花子さんがさらにきょとんとする。

「瞳さんって……いま、花子さん言わなかった?」
「わーわーわー!」

 口裂け女さんが、慌てててをぱたぱたさせながら、話を遮る。

「なし、今のなし! サ、おままごとの続き、続き! こら、そこのボク! 夏休みの宿題に集中しなさーい!」
「あ……うん。……でも」
「いーのいーの、何でもないんだからサ! 何でもないの!」
「……」

 なんだよ、もう。
 僕はまた分数の面倒くさいことこの上ない計算と、にらめっこを始めた。

 ちらり。
 まだやかましくおままごとをやっているお化けたちを見る。
 あ、口裂け女さん、ワンピースなのに無防備にあぐらなんか組んじゃって。

 水色、かあ……。