【完結】きぃ子ちゃんのインスタントカメラ

 君に、考えてみてほしい。
 愛しいひとがいなくなってしまったら?

 君に、想像してみてほしい。
 そのひとが居た、証拠も、痕跡も失われてしまったら?

 君なら、できるよね。
 想像できるよね。

 どうか考えてみて、ほしいんだ。



 二年と八十五日目。令和六年八月十二日。月曜日。

 ミーンミンミンミン──……。

 六時五十分、朝。
 真夏の日差しは、こんな時間でも、寝室を容赦(ようしゃ)なく焦がしてくる。

 僕の部屋は白日光(はくじつこう)を大好きな魚模様の水色のカーテンで遮っているから、薄明り。
 昨晩からついてるとても古いエアコンが、必死に頑張って涼風を届けてくれている。

 僕は、そんな薄暗い部屋の中で、ひとり学習机の椅子でひざを抱えてうなだれている。
 考えているんだ、ずっと最近の違和感(いわかん)を。

『泣いてるの?』

 口裂け女さんが、机の上に並べられたインスタント写真の中から聞いてきた。

『ボク、元気少ないね?』
「寂しくて」

 ぽた、ぽた。僕は大粒の涙でほっぺたをぬらす。

「どうして居なくなっちゃったんだよ」
『いなくなったってぇー、だれがー?』

 トイレの花子さんが聞いてくる。

「誰って、それはもちろん……」
『もちろんー?』

 花子さんは不思議そうに首をかしげるが、どうしてか僕には思い出せない。

『おぼえていないの? ほんとうに?』

 座敷童くんは何かを知っているのだろうか。

『えへへ、あさぎちゃん、忘れっぽいから』

 一つ目小僧のお鈴ちゃんが笑う。