「あの、川瀬くんは……」
「朔でいいよ」
「朔は、どうしてここに来たの?」
「急に雨降って来たときに、ちょうどここの公園の近くにいたから雨宿りしようと思って」
そうなんだ、と軽くあいづちを打つ。
この辺は人通りが少ないはずなのに、どうして朔はこの辺にいたのだろうか。そんな疑問が浮かんだけれど、あえて口には出さずにいることにする。
「じゃあ、鈴音は? 雨降る前からいたよね、多分」
「えっと……。この公園がお気に入りで」
「そうなの? 確かにいいね、この公園」
毎日通っている、とは言わないことにする。ここは私にとって〝秘密〟の場所だから。
朔は穏やかに微笑んで、ベンチの外を見つめていた。だけど、その笑みにはどこか切なさも交えていて、思わずどきりとする。
私もつられるように外を見ると、雨はずいぶんと弱くなっていた。私はそっと息を吐き出す。
「……雨、弱くなってきたね」
小さくつぶやくと、朔もそうだね、と笑った。そろそろこの公園から、立ち退かなきゃいけないのが、すごく名残惜しい。