残暑の厳しさも和らいだ10月。

もう、学生の夏休みも終わった頃のはずだが、新幹線の中は割と混んでいた。

私は窓側の席で、隣の席には、スーツ姿の男性が座る。

しばらく、ぼんやりと景色を眺めていたが、途中からトンネルばかりになった。

トイレに立ち、席に戻ってきた時に、思わず、

「あ」

つい、間の抜けた声が出てしまった。

「え?」

私の隣の席の、スーツ姿の男性は、通路に立つ私を見上げた。

「あ!ごめんなさい。実は、私も同じ本を持ってきていたものだから…」

彼が読んでいたのは、アガサ・クリスティの【ゴルフ場殺人事件】。

まさか、同じタイミングで同じ本を読んでいる人と、隣の席になるとは思わなかった。

「そうなんですか?奇遇ですね」

彼は、私のことを不審がったりせず、微笑んでくれた。