″当店イチオシ″

猫の顔の形に象られた画用紙に
ポップなフォントで手書きされた名札。

「メロ…」

″イチオシ″の下に書かれている名前を呟いたら
親友が「オキニ発見?さっすが、お目が高い!」なんて茶化してくる。

「オキニっていうか…気になっただけ」

にゃあ、って猫初心者みたいなぎこちなさで鳴いたその子は
ちょっと吊り目気味で目頭の堀が深い目も
ファサファサと首元を撫でていそうな長めの襟足も
猫よりは狼に似ている。

ガラス壁で隔たれている、
あちら側とこちら側。

ゲージの中の子達がへばってしまわないように冷房が効いているのか
ふわふわと襟足が(なび)いている。

「この子、お泊まり体験オッケーだって」

親友が説明書きを人差し指でなぞりながら
上目遣いで私を見た。

「んー、どうしようかな。うち、ごはんとか無いし」

「適当に買ってけばいいじゃん」

レンタル料、一万円。

思考停止した脳みそで
勢いで口座からおろしたお年玉貯金。

八つ当たり気味に財布に押し込まれたぐちゃぐちゃの一万円札は二枚。

新紙幣に変わって、
見慣れない顔が財布の中で出番を待ち構えている。