そろそろお腹が空いてきたわね……。
よしっ!!
それでは作戦開始よーー!!
「アレクシス王子、お腹が空きませんか?」
「…… そうですね。ちょうど昼時ですし…… なにか食べましょうか?」
「では私が買って参りますので、そこの椅子に座って少し待っていて下さい」
「えっ? 私もついて行きますよ」
「大丈夫です!! 一人でっ、では行って来ますねーー」
ごめんなさいね……。
有無も言わさずに置き去りにしてしまったわ。
今から、いーーっぱい食べ物を買い込んできて食い気しかない姫だということをもっと知ってもらわないと!!
大抵の殿方は色っぽい女性を好むのだとハンナが言っていたことがあったわ。
私は色気より食い気よっ!!
この私に色気なんて欠片も微塵にも無いともう知っているかもだけど……念押ししておきましょう。
さぁーー買いまくるわよーー!!

我ながら両手いっぱいに買い込んでしまったわね。
この私の姿を見たアレクシス王子の反応が楽しみだわ!!
ウッシシ。
きっと呆気にとられるはず。
「お待たせしましたーー」
アレクシス王子……凝視しているわ……ヤッタ!!
作戦は成功ねっ。
「プッ、プッハハハーーこんなに沢山お一人で買って持って来たのですか? ハッハハハーー姫は私を笑わす天才ですねっ!!」
んっ!?
なんだか思っていた反応と違うわね。
どうなってるのかしら?
うーーん、これは……きっと……笑い者扱いされてるってことでいいのよね?
なら成功じゃない!?
よかったーー!!
「えぇ、私は食べることが大好きで食い意地が張っておりますのっ」
そうよ、素の私を知って幻滅するといいわ。
「いえいえ、そんなハハハーーよく食べるのは良いことですよ。それにどれも美味しそうです」
ーーあらあら無理しちゃって。
「そうですよねーー!! どれもこれも美味しそうだったので買わずにはいられなかったのです。冷めないうちにいただきましょう。この薔薇ジャムの塗られているパンケーキは最高に美味しいのですよ。それとこのお肉の串刺しと、フルーツ飴も、あっ、こちらのサンドイッチも美味しいてす!!」
「ハハハーーそれではこの薔薇ジャムのパンケーキをいただきたいと思います」
「どうぞ、お召し上がり下さい」
ーーなんだか昨日から思っていたけど……お食事をされているお姿までも気品があって美しい方ね。
食い意地の張った私とは大違いだわ!!
「この薔薇ジャムのパンケーキすごく美味しいですね!! この薔薇ジャムは風味が良く甘さ控えめでパンケーキにとてもよく合ってます」
「お口に合って良かったです!! この店の薔薇ジャムは私のお気に入りなのですよ。スコーンにも合いますし、シフォンケーキにも、パンにも合いますよ」
んーーもう本当に美味しーー幸せよーー。
「エレノア姫は薔薇ジャムが本当にお好きなのですね。確かにどれにつけても美味しそうです」
「はい、好きですよ。でも薔薇ジャムのパンケーキだけじゃなく他の食べ物も好きです。いっぱい買い込んできたので沢山召し上がって下さいね」
「…… ほんとうに沢山買ってこられましたね。全部食べれますでしょうか?」
ーーまぁ、さすがの私も買い込み過ぎた感はあるけど。
「大丈夫です!! アレクシス王子が食べれなくても、私が責任を持って全部平らげますので!!」
ーーとんだ大食い女だとお思いでしょうね。
幻滅されているはず。
私はどう思われてもいいわ。
脇目も振らずに食べるのみっ!!

もうお腹がはち切れそうよ……。
やっと全部食べ切ったわ。
さすがに食べ過ぎね。
「お腹がいっぱいになりましたね…… エレノア姫」
ーーアレクシス王子もかなり頑張って食べてくれたものねっ。
「そうですね。食べたあとは運動しましょう!! これからスカイミラー湖へとお連れします。とても美しい湖なのですよ」
「それは楽しみです!!」
私達はスカイミラー湖へと向かった。

⭐︎

「アレクシス王子、着きましたよ!! ここがスカイミラー湖ですよ」
「これは…… 息を呑む美しさですね」
「えぇ。そうですね。この自然とこの景色はウェンスティール国の宝です」
私はこの場所が昔から大好きなのよね。
壮大な山々の色と草原に咲き誇る花々の色と、このスカイミラー湖が映し出す空色。
自然の生み出す色には人を癒す力があると思うわ。
「アレクシス王子、向こう側の湖のほとりに大きな一本木が見えますよね。あの木に登って上から眺める景色はもっと素晴らしいですよ。さあ行きましょう!!」
「えっ!? き、木登り……」
困惑したご様子のアレクシス王子を連れて私は一本木へと向かった。
ーーまさか縁談相手が木登りまでする姫とは想像すらしていなかったでしょう。
アレクシス王子……お気の毒に。

大きな一本木を目の前にしたアレクシス王子が戸惑いながら言う。
「こ、こんな高い木に登って姫が怪我でもしたら大変です!! 危ないのでよしましょう」
「私は昔からこの木に登っているので大丈夫ですよ。この木の枝もとっても太くてしっかりしているので……」
「ダメですよ。怪我してからでは遅いのですから」
ーーお父様とお母様みたいなことを言うわね。
ダメと言われて大人しく引き下がる聞き訳のよい姫でもないってことも知ってもらいましょう!!
「じゃあ、私が一人で登りますのでアレクシス王子はそこからでも景色をお楽しみ下さい」
「…… えっ!?」
さてとっ、、
私はいつも通り一人で登るとしましょう。
よいしょ、よいしょっ、とっこうやって登ってる時も結構スリリングで楽しいのよね……。
「フーーゥ」
いつもの枝まで登ってこれたわね。
最高にいい眺めーー。
ん……?
なんかガサガサ音がするわね……。
あれっ!?
いつの間にやらアレクシス王子も登ってきている。
どうしたのかしら……?
「エレノア姫だけ登らせて私が一人で下で待っているわけにはいかないので…… 姫が落ちないように傍にいます!!」
ーー私の方がアレクシス王子よりも木登りは慣れていると思うのだけど……心配してくれてるのかしら?
「ありがとうございます。でも私は落ちたりしませんよ。私の方こそアレクシス王子が落ちそうになったら腕を掴んで引っ張り上げて差し上げますねっ」
「ハハハーーそんな私の面目が立たないことを言わないで下さいよ。エレノア姫」
なんだか知らないけど……失礼なことを言っちゃったかしら?
「ですが…… そう言ってもらえて嬉しいですよ。それにしても…… 本当に美しい眺めですね。確かにこの景色はここに登らないと見れないですね。スカイミラー湖という名の通り、透きとおった綺麗な湖面に上空がそのまま映し出されていて…… 上空と下空の二つの空が見れるとは。この景色は一生忘れることはないでしょう」
ーーとても気に入ってもらえたようね。
「良き思い出になりそうでよかったです。スカイミラー湖は別名トゥルーミラー湖とも呼ばれいて水面を覗いて映し出される自分の姿が鏡のように鮮明に見える人は心の美しい人と言われているのです。逆に水面に映し出された姿がボヤけて鮮明でない人は心が濁っていると言われているのですよ。下に降りて覗いてみますか?」
「それは面白そうですね。是非覗いてみたいです!!」
「じゃあ、早速降りて覗きに行きましょう」
ーーまぁ、迷信なんだけど……。
さすがに自分の姿が鏡みたいに鮮明に映し出される人なんていないしねっ。
私もここに来る度に覗いてるけど……いつもボヤけてしか見えないし。

「アレクシス王子、この辺りで一緒に覗いてみましょうか?」
「はい、そうしましょう」
うーーん。
やっぱりボヤけて見えるわね……私の姿。
アレクシス王子の姿もボヤけてる。
当然よね……。
鏡みたいに鮮明に見えるはずなんてないわよ。
いくらスカイミラー湖でもそこまでは無理でしょう。
まぁそれに……私が美しい心の持ち主じゃないってことは否定は出来ないわ。
んっ……?
どうしたのかしら!?
アレクシス王子が水面に映し出された姿を見て固まっているわ……。
やだっ!!
大変よーー!!
そんなにボヤけたご自分の姿が見えたのがショックだったのかしら?
「アレクシス王子…… 心配なさらずとも迷信ですから……」
「い、い、いえ、そうではなくって……」
そうではないのなら……なんなのかしら?
んっ……なっ、なっ、何?
どうしてそんなに焦っているの!?
何故か顔も真っ赤じゃないっ!!
なんで私の顔と水面に映し出された私の姿を何度も見比べてるの!?
一体何なのかしら……?
あっ、分かったわ!!
私の映し出された姿がボヤけていて心が美しくないことがバレてしまったから動揺しているのねっ!!
心の美しくない妃なんて隣にいて欲しくないと思ったのよ!!
そりゃそうよねーー絶対にお断りだわよ!!
もうこれでアレクシス王子は私との縁談を破談にしたいと思っているはず。
なんだか知らない内に作戦が上手くいってるようで良かったわね。
アレクシス王子のこの動揺のされかたは……間違いなく私に幻滅しているわ。
よくやった私!!
グッドジョブ!!