アレクシス王子との縁談が決まってから乗り気ゼロの私とは対照的に侍女長のハンナは大いにノリノリで張り切っている。
当日のドレスやアクセサリーや髪型をどうしましょーー?
こうしましょーー?
やっぱりこっちもいいですわねーー?
ずっとこんな調子で喋り通しだっ!!
乙女モード全開のハンナに圧倒されてしまう……。
私に変わってハンナを縁談させてあげたいくらいだわ。

⭐︎

 そうして迎えたアレクシス王子との顔合わせの日。
ーーコンコン、
「エマでございます」
「はーーい、どうぞーー」
「失礼いたします。エレノア様、今朝のお目覚めはいかがでしょうか?」
侍女のエマが毎朝、私を起こしに来てくれている。
「ウーーなんだか夢見が悪かったわ」
ドヨーーン。
よりにもよって……こんな日にお父様とマリアの不貞を知ってしまった日の事を夢に見てしまった。
不吉だわ……。
不吉すぎる!!
「それは心配ですね…… 今日はアレクシス王子とお会いする大切な日。リラクッス効果のあるエレノア様がお好きなラベンダーティーをお入れいたしますね」
「ありがとう。エマ」
「いいえ。朝食を終えたら本日のアレクシス王子との顔合わせの準備がありますので支度部屋へとお越し下さいとハンナさんが仰っておられました」
「んーー何だかハンナがすごく張り切ってる姿が目に浮かぶわね!!」
「フッフフ。すごく張り切っておいでですよ!!」
「やっぱりねっ!!」
私とエマは目を合わせ笑った。

⭐︎

「ハーーァ」
食べることが唯一の楽しみの私が今朝はあまり食が進まなかったわね。
夢見の悪さが尾を引いているのかしら?
それとも男性不信の身で隣国の王子と縁談なんかさせられてしまう悲劇からかしら……?
取り敢えず早くハンナの所へ行かなきゃだわっ!!
ーーコンコン、
「お待たせーー」
ズイッ、、と素早く私の目の前に姿を見せたハンナに驚き寝不足の眠気も吹き飛んだ!!
「おはようございます。エレノア様、お待ちしておりました!! さーー気合い入れて準備いたしますわよーー!!」
今日のドレスもアクセサリーも全てハンナセレクト。
こういったことに全くの興味が無い私よりもハンナの方が趣味がいいし。
面倒だから丸投げしてしまったけど……ハンナが楽しそうで良かったわ。
着々と身支度が進む中、
ーーコンコン、
扉が叩かれた。
「はい、どうぞ」
「やぁ、可愛い我が妹エレノア!!」
ゲッ!!
お兄様だわっ!!
私ったら……ゲッ!!だなんて思っちゃったわ。
心の声をうっかり出さないようにしなくっちゃっ。
「お兄様…… どうされたのですか?」
「どうもこうもないさ、可愛いエレノアが美しく着飾っていると聞いて見に来たんだよ。さすが我が妹だ!! 綺麗だよ。アレクシス王子もきっとエレノアを気に入られるだろうなーー」
いつもそんな調子で女性を口説いているのがバレバレですよ……お兄様。
それに私は気に入られたくないのですが……。
「本当にお美しいですわ。私も惚れ惚れしておりましたところです」
ハンナ……ありがとう。
あなたの言葉は素直に嬉しいわよ。
「そうだろ、そうだろ。我が妹は美しいからな。だがアレクシス王子はどんな方だろうな? 隣国の王子といえども変な方でなければよいが……」
ーー変なお方は今私の目の前にも居てるではないですかっ!!
おっと、、危ない危ない!!
また心の声が出そうになったわ。
「お兄様…… ご用がお済みでしたらそろそろ……」
「あっ!! そうだそうだ、もうじきアレクシス王子が到着されるらしい。支度が済んだらエントランスまで来るようにっとのことだ」
「わかりました。それでは支度が終わり次第すぐに向かいますね」
「あぁ、そうしてくれ。じゃあ邪魔者は出て行くとするよーー」
お兄様はそう言って去って行った。
ようやく出て行ったわね。
先に用件を言えばいいのに。
でも……いよいよね。
なんだか緊張してきたわ。
悪夢は見るわ。
朝食は喉にとおらないわ。
コルセットはキツいわ。
もう既に散々なんだけど。
でも……これからが本番なのね。
「さーーエレノア様、この耳飾りを付けたらもうお支度は完了ですわ」
ハンナがそう言って私の耳にキラキラと輝く耳飾りを手際良く付けた。
「もう本当にお美しいですわよーー」
「とてもお似合いです!!」
ハンナや侍女達が一様に私を持ち上げてくれる。
「…… ありがとう」
皆の頑張りにはお礼を言わないと。
でも当の私はそれどころではない!!
身支度が終わってしまった……。
きっと正常な乙女ならば美しく着飾った自分の姿を鏡で見て酔いしれる場面なのだろうけど…。
だけど私は今から男性不信にも関わらず縁談相手の隣国の王子を迎えるという大役が控えているのよっ!!
私……大丈夫かしら……大丈夫かしら……?
オロオロしてる場合じゃないのだけれど。
もーーどうなっても知らないんだからっ!!