❆約束 ーSide 俺ー❆




















目の前の光景が信じられず、夢かと思った。




違う。




信じたくなかったんだ。




香奈子が車に轢かれそうだなんて。




でも青ざめて血みどろの香奈子の顔を見て一気に現実味が押し寄せてきた。




あと少しだけ俺と香奈子の距離が近かったら、香奈子を助けられたかもしれない。




香奈子がスマホを忘れたことにもっと早く気づいて追いかけていたら、痛い思いをさせずにいられたかもしれない。




野次馬が香奈子を囲み、大きな怪我はしていない様子の車の運転手はどこかに電話をかけている。




注意してみれば、香奈子の肩は僅かに上下している。




生きようとしているんだ。




いま、香奈子は生と死の間で戦っているんだ。




「香奈子! 死ぬな!」




周りなんて視界に入らず、俺が見ているのは香奈子だけ。




このまま香奈子と話せなくなるなんて嫌だ。




真っ赤に染まった香奈子に駆け寄る。




ぼんやりとした顔でどこを見ているのか分からない香奈子は、安心したような表情を浮かべてそっと瞳を閉じた。




呼吸もだんだんとゆっくりになっている。




力の抜けた体温の感じられない香奈子の手を握る。




「香奈子!」




俺の願いも虚しく、救急車のサイレンが聞こえてくる頃には香奈子の呼吸音は聞こえなくなっていた。