「次の方、こちらにお並びくださーい!」



 明るく爽やかな声を張り上げる彼。順平(じゅんぺい)くんだ。

 高校生だけど、お休みの日は実家の「福良亭(ふくらてい)」で働いている。ここのイチオシはアツアツの肉まん。
 奥まった路上にある小さな店なのに、いつも行列ができている。

 わたしは近くのベンチに座り、スマホでゲームをしているフリをしながら、順平くんを観察。

 サラサラの黒髪にくっきりした目鼻立ち。順平くんは高校でも大人気。それもそのはず、働いている時と同じように愛想がいいんだもん。

 いつも、順平くんの周りには人がいて。いつも、順平くんは笑っていて。

 小さい頃は、わたしと二人だけでおままごとをして遊んでくれていたのに。もう幼稚園時代のようにはいかない。

 でも……。



「さくら、お待たせ」



 休憩時間になった順平くんが、包みを持ってわたしのところに来てくれた。



「あー、やべぇ。疲れた。だりぃ」



 そう言って、むっすりとした表情をするのは、わたしの前だけ。そう思うと、ちょっぴり特別な気分。



「はい、さくら。父さんと母さんが、せっかくだから新作食べてもらえって」

「わぁっ、ありがとう!」



 順平くんが渡してくれたのは、のぼりにも出ていた角煮肉まん。ゴロゴロと角煮が入っていてボリュームがある。



「んー! これ美味しい!」

「だろ? 俺も好き」



 好き、の気持ちを、わたしにも向けてくれていたらいいのにな、なんて。

 バカみたいだなぁ。わたし、幼稚園の時からずっと、ずっと、順平くんのことが大好き。この気持ちをいつかは伝える時が来るのかもしれない。けれど、それは今じゃない。



「順平くん。大学の話、したの……?」



 わたしたちは高校二年生。受験まではまだ時間があるけれど、進路希望表を出すように先生に言われていた。



「ん……まだ。言い出しにくくてさ。父さんも母さんも、高校卒業したら俺が店に入るもんだって思い込んでるから」

「そっか……」



 順平くんは、わたしにだけ打ち明けてくれた。大学に行きたいんだって。

 わたしも大学を目指している。

 そして、夢が叶うのなら、順平くんと一緒のところに行きたいなって……。



「わたしから言ってあげようか?」

「ダメだって。余計にややこしくなる。自分でちゃんと考えて、自分の言葉で言うよ」



 そんな、芯の強いところも、ますます好き。

 この気持ちはいつまで膨らむんだろう。爆発しちゃう前に、言わなくちゃ、って思うのに、なかなか踏み出せない。



「あ……そろそろ行くわ。ありがとな、さくら。お前と話すのいい息抜きになるんだよ」
 
「わたしもありがとう。頑張ってね!」



 いつか、いつか伝えるね。この気持ちをあなたに。