「頼む……。これで、おれは……」


詠唱を終えた後、両目を閉じた。

懐から刃渡り十八センチのサバイバルナイフを取り出し、その切っ先を自らの喉元に押し当てた。


儀式の仕上げは、自らの命を生贄に捧げること。

肉体から抜け出た魂は異世界へと行き、新たな肉体に憑依する。



手に力を込めた、その時だった。

不意に、自分以外の誰かの気配を感じ取り目を開ける。


「……」


おれが描いた絵の中央に、一人の女が立っていた。

いったい、いつからそこにいたのだろうか。

歩く足音も、近づいて来る気配も無かった。