オウマ君の事情や、我が家への依頼。それら全部を、ホレスに話す。普通ならとても信じられないようなことだけど、それを笑わず聞いてくれるのが、ホレスだった。
 いや、正確に言うと笑ってはいたね。
「ヒャッホー! なんだよその話、インキュバスに会えただけじゃなく、そんな楽しいことになってるのか。よくぞ俺を誘ってくれた!」
「はいはい、嬉しいのはわかったから落ち着いて」
 ……まあ、こんな感じで大喜びしていたわ。オウマ君はそれを見て不安そうな顔をしていたけど、ホレスはオカルトと聞くと変なスイッチが入るから、諦めてもらうしかない。
 それから、ひとまず三人で私の家へと行くことになる。これ以上の話は、資料もたっぷりある我が家の物置でした方がいい。
 家に帰ると、まずジェシカに、二人が来たことを伝えておく。
「私達、今から物置に行くけど、お茶とか挨拶とかは一切いらないから」
「かしこまりました。例の、オウマ様のインキュバスの力に対する配慮ですね」
「そう。女の人が自分を見たらまた魅了させるだろうって気にしてたから、絶対に顔を出さないでね」
 ジェシカにも、依頼の件は全て話してある。
 ジェシカは口が固いし、我が家にとっては家族のような存在。言っても問題ないだろう。
「ですがオウマ様は、インキュバスの力を抜きにしてもお顔はイケメンなのですよね。それなら私は、例え魅了されても一切困らないのですが。と言うか、イケメンならそれだけで、大いに魅了される自信がありますし、ましてやホレス様とのツーショットが拝めるとなると、むしろ魅了なんてドンとこいです」
 そう言えば、ジェシカが言うにはホレスもイケメン枠だっけ。イケメン単体はもちろん、イケメン同士の絡みも尊いって前に言ってたっけ。
「ジェシカはそれでいいかもしれないけど、オウマ君は気にするから」
「そうですか。残念です」
 しょんぼりするジェシカを置いて玄関先に向かうと、そこには待たせていたオウマ君の姿がある。ただ、ホレスはいなかった。
「ごめん。ホレス先輩、先に物置行っとくって、止めるのも聞かずに勝手に入って行っちゃった」
「ホレスらしいわ。よくあることだから気にしないで」
「よくあるのか……」
 驚くオウマ君を連れ物置に行くと、ホレスは既に中にある本や資料を物色している最中だった。
「なあシアン、もしかして本の場所動かしてたりする? 前に来た時と、微妙に置いてある位置が違うんだけど」
 勝手に入って物色しているのを謝りもせず、そんなことを言ってくる。
「昨日私も色々見たからね。元の場所に戻そうにも、あちこち散らかってて全然わかんないよ」
「俺は、どこに何があるかだいたい覚えていたんだけどな。それはそうと、インキュバス関連の資料いくつか抜き取っておいたぞ」
 こんな乱雑に散らばっている中、どこに何があるのか覚えているのは、さすが天才と言われるだけのことはある。ついでに、片付けもしてくれたらよかったんだけど。
 だけどホレスは、せっかく取り出したそれらの資料を一切開く事なく、爛々とした目でオウマ君を見る。
「それより、今はせっかく生インキュバス君に会えたんだ。学校では話せなかったこと、たーっぷり聞こうじゃないか」
「わ、わかりました。だけど先輩、その生インキュバス君っての、やめてもらっていいですか。あんまりいい気分はしないんで」
 オウマ君は、ホレスの遠慮ない態度に早くも疲れぎみの様子だ。
「はいはい。ではオウマ君、まずは基本的な事から確認していこうか。例えばこの資料には、そもそもインキュバスはどんな悪魔なのかが載ってるけど、全て真実と思っていいのかな?」
「なんて書いてあるんですか?」
「えーと、女性の生気を吸い取り、自らの力とする。女性を魅了させる能力をもち、周りには数多の女性を侍らせる。魅了の力を強めると、相手はどんな命令も聞くようになり、つまりはあんな事やこんな事のし放題。女を見れば手当たり次第の見境なし。淫乱、最低、変態、女の敵。ある意味男にとっても敵。リア充爆発しろ。歩くセクハラ大魔王……」
「本当にそんなこと書いてあるんですか!?」
 全てを言い終わる前に、オウマ君が声をあげる。そんなこと言われたら、心のダメージが凄そう。
 だけどホレスの持っている資料を見てみると、そこにはさっき言ったことと一字一句違わぬ内容が書かれていた。
「これ書いたのうちの先祖だからね。モテるのが羨ましくて、思わず私情が入っちゃったんだと思うよ。なんか、ごめん」
「す、全てのインキュバスがこんなんじゃないからな。そりゃやろうと思えばできるだろうけど、実際にそれをやるかどうかは別問題な訳で……」 
 真っ赤な顔で、自分は違うと訴えて来るけれど、そんなに必死にならなくてもわかるから。
 さらに資料を見てみると、その隣に、インキュバスの絵が描かれているのが目に入る。紫色の体に丸まった角を持つそれは、前にオウマ君が姿を変えたものとそっくりだった。