「そ、そんな…僕は、全然……」

「…お願いします」


必死に頭を下げる彼女を見て、少しだけ胸の奥が痛んだ。
なぜ、自分なんかの為に頭を下げるのか分からず、それでも冬翔は気が付くと返事をしていた。

彼女が顔を上げ、良かったと呟く。
それから近所の公園に行き、彼女の手当を受ける。
冬翔は公園のベンチに座り、何をする訳でもなくぼんやりと遠くの夕焼け空を眺めていた。


「っ……!」


突然彼女が冬翔の手に触れ、思わず声にならない声を出してしまった。


「ごめんなさい。痛かったですか?」

彼女の優しい声と、自分の情けない声があまりに差がありすぎたように感じ、冬翔は何も言えなくなり、ただ俯くしかなかった。


「絆創膏を貼っておいたので、これで大丈夫だと思います」


そう言って彼女は立ち上がると、冬翔の方を向き直った。
冬翔も少しだけ顔を上げる。瞳の隅に彼女の姿を映した。
その姿はまるで今にも夕焼けに溶けてしまいそうな程、儚く思えて冬翔はなんとか口を開いた。

「…ありがとうございます……」


「いえいえ。私がぶつかってしまったんだし、これくらいの事はさせて下さい」


彼女の笑顔がふわりと夕焼けに混ざる。
その瞬間、冬翔の心の奥に眠っていた感情が少しだけ目を覚ましたような感覚を覚えた。



けれど、これ以上話し掛ける事が出来ない。
言葉を探すけれど、どんな言葉を掛けたらいいのか分からない。