誰にも遭遇せずに、アパートを出ると急いでスーパーマーケットまで急いだ。
羽織ったパーカーのポケットに手を突っ込み、下を向いたまま急ぎ足で歩く。


少しでも近道をする為に冬翔は路地に入り、曲がり角を抜けようとした。
その瞬間、冬翔は誰かに思い切りぶつかってしまい、バランスを崩してしまった彼はその場に尻もちをついてしまった。


「……っ!……あっ……」

一瞬何が起きたか分からず、冬翔は地面に手をついたままゆっくりと顔を上げた。
そこには、心配そうに冬翔の顔を覗き込む女の子の顔があった。
一瞬にして心臓が跳ね上がり、冬翔は俯く。



「ごめんなさいっ、私…思い切りぶつかっちゃいましたよね。あの、お怪我とかありませんか?」



その優しい声色に冬翔の頬に赤みがさす。
ゆっくりと自身の身体に異常が無いかを確認してから、首を横に振った。


「だ……大丈夫。です……その、」


そのあとの言葉が出てこず、冬翔は俯いたまま立ち上がった。
早くここを通り過ぎよう。


そう思い、彼女の横を通り過ぎようとした時。


「あっ、待って下さい…!そこ、手の甲…擦りむいてます」


彼女の声にビクリと身体を震わせてから、恐る恐る自分の手の甲を見てみると微かに擦りむけて血が滲んでいた。


「あっ…。だ、大丈夫です…これくらい…すみません……」


「ダメですよ。小さな傷でもバイ菌が入ったら化膿してしまうかもしれないし…。私のせいで怪我をさせてしまったので、応急処置だけでもさせて下さい」


彼女の言葉に冬翔は戸惑った。
出来るなら今すぐ逃げ出したい。
冬翔は口を開いたが、うまく言葉が出て来なかった。