───執着───
ベルの誕生日が迫る今日この頃私はムーン王子とリリール王子とベルの誕生日プレゼントを買う為に街へ繰り出していた。



「茜、このブローチはどうだろ?」



「お花とかいいんじゃない?」



「本とかもいいよね?」



「でもベル兄さんがどの本持ってるとか知らないよ?」



「確かに…あ、カヌレ!誕生日プレゼントにどうかな?」



「カヌレかー確かに良さそう♪」



「だよね、じゃあ買って来るね」



「待って待って俺も行くよー」



「いってらっしゃい僕はここで待ってるから」



「いってきます♪」



「おーいってくるー」



そして私はいつものパン屋でカヌレを買い、熱を出し倒れたベルの為にケコッコー(卵のようなもの)とマイマイ(米のようなもの)を買い城に帰城した。



早速私は厨房へ赴き縁堂さんにお願いをして料理を開始した。



無事にお粥的なものを持ってベルの部屋へ向かった。


「ベル、ちょっといいかな?」


───コンコン



扉をノックしながら声をかける。



だが、返事はなかった。



「寝てるの…?」



そっと扉を開けるとベルがベッドで眠っていた。



「…お粥どうしよう」



無理矢理起こすのも悪いので、私はそのままベルの部屋を出て厨房へ戻り冷蔵庫にお粥を入れてベルが起きるまで部屋に居ることにした。



ベルの部屋へ向かう道中私はユーリと遭遇した。



ユーリは此方に気付くと鬼の形相で近付き



「お久しぶりです。茜様」



「ユーリ様お久しぶりです」



「ベルと最近はどうかしら?」



「とても仲良くしておりますよ」



「あら、それは良かったです。本当は私がベルのお嫁さんになる予定なので早く別れてくれても構わないんですよ?」



まだ根に持ってるんだなって丸わかりの態度と言葉で攻撃を仕掛けるユーリ様に見兼ねた家来がユーリ様にさり気なく耳打ちをして言う。



「ユーリ様夕食の時間が迫っております。誕生日プレゼント選びの時間が短くなってしまわれますよ」



「それもそうね。それじゃあ、ごきげんよう茜様…今度は覚えてなさいよ泥棒猫」



「茜様大変申し訳ございませんでした」



家来がぺこりとお辞儀をして去って行った後、私は気を取り直してベルの部屋へと辿り着いた。



そっと扉を開けてベッド横の椅子に腰掛けベルの寝顔を眺めた。



暫くしてベルが目覚めると私はいつの間にか寝落ちしてしまっていたのかベルがカーディガンをかけてくれていた。



「ベル…」



「おはよう茜…いや、もうこんばんはかな?」



「こんばんはだね…ごめんね寝落ちしちゃって狭くなかった?」



「大丈夫。狭くなかったよ…それより茜」



「ん?」



「縁堂さんから聞いたよお粥作ってくれてありがとう」



「…美味しかった?」



「勿論美味しかった」



「良かったー」



「茜の作ったお粥のおかげで僕の熱も下がったし明日は元気になってるはずだよ」



「そっか、良かった…」



「だから誕生日パーティーの夜は一緒に過ごそうね」



「うん!」




そして翌日宣言通り元気になったベルは無事に自分の誕生日を元気に迎えることが出来た。



「お誕生日おめでとうベル」



「お誕生日おめでと〜!ベル兄さん」



「ベル兄さんお誕生日おめでとう」



「ありがとうみんな」



それぞれ祝いの言葉を掛けた後、誕生日プレゼントを渡す。



私も例に漏れずにプレゼントのカヌレを渡した。



だが、人気者のベルがプレゼントを受け取ると他の女の子達に押し退けられた。



その拍子で私は思わずよろける。



「茜!」



するとベルがすかさず手を差し伸べ私の腰に手を回し



「僕の隣に居てよ…茜のこともっと沢山の人に自慢したい」



「ベル…」



ヒューヒューという恋愛系の話にはありがちな冷やかしは起こらなかったが、周りからは微笑ましいや初々しいなどの声が聞こえ和やかな雰囲気に包まれる。



その時会場にベルの誕生日ケーキが運ばれて来た。



「茜ケーキを取って来るよ」



「ううん、私が行くよ。病み上がりのベルに無理はさせたくない」



「茜…ありがとう」



「じゃあ、いってくるね」



そして事件は起こった。



「あっ」



ユーリ様とすれ違ざまにユーリ様の手に握られたケーキが私のドレスに落ちる。



そして驚きで固まる私にユーリ様はわざと私にぶつかり転けた。



「痛っ!ちょっと!!謝りなさいよ」



「…え?」



「今私にぶつかったでしょう?謝って」



「も…」



「でも、その前に茜にケーキ着けたのはユーリだろう?」



「ベル…」



ベルが助太刀に入るとムーン王子やリリール王子も加勢する。



「…っ!」



「でも、ぶつかって来たのはそちらよ!謝りなさいよ!」



「僕、見てたよユーリ様がぶつかりに行ってたんじゃん」



「…嘘よ!」



「本当だよ」



「俺も見てた」



「茜、大丈夫かい?」



「大丈夫…」



「…っもう!私が悪いんでしょ?はいはいすみませんでしたー」



遂に周りの圧力に耐えきれなかったユーリ様が棒読みで謝罪する。



「ユーリ様もう行きましょう。皆様申し訳ございませんでした」



ユーリ様の家来がお辞儀をしてその場は収まりを見せる。



だが、ベルは今回の件でガチでキレたのかどうなのかは分からなかったが家来とユーリ様を引き止めて何かを話し合っていた。



「気になる?」



「ムーン王子、リリール王子」



「兄さん余っ程頭に来たんだね目が怖いよ」



「あははっ本当だ」



「それより!ふたりともさっきはありがとう」



「どういたしまして」



「どういたしまして♪別にお礼なんか良いのに〜」



「でも、嬉しかったし、お陰で濡れ衣着せられなくて済んだんだし」



「まぁ、気持ちは喜んで受け取るよありがと♪」



「茜様、お着替えに参りましょう」



メイドのメリドットが聞き耳を立てて居たのか会話が途切れるタイミングでやって来る。



「あ、メリドットちゃん」



「それでは失礼します」



「うん、茜。またあとでね〜」



「うん!」



そして、パーティー会場から自室への道中ユーリ様を見かけた…が、泣き崩れ



とてもじゃないが声をかけるのを躊躇って私は声をかけることなくメイドさんに会釈をしてユーリ様のメイドさんも会釈を返してくれたので私達はその場を後にした。




自室からパーティー会場へ戻るとベルが出迎えてくれた。



「茜!こっちこっち」



「ベル!どうしたの?」



「茜にこれを見せたくてね」



と言いベルは綺麗な飴細工の鶴を見せる。



「鶴だ!ベルが作ったの?」



「いや、縁堂さんがね平和の象徴だからって作ったんだ。茜が住んでた世界ではこの鳥は平和の象徴だったんだね」



「うん…にしても綺麗だね」



「うん。綺麗だね…でも」



ベルが私の耳に近付き



「茜の笑顔が僕は一番好きだな」



と言い頬にキスをする。



ほんのり顔が赤くなっているような火照りを感じながらも私はこの幸せな時間を噛み締めた。