───ムーン王子とおっちょこちょいな新人メイドさん───
ベル兄さんと茜が婚約し数ヶ月。



俺は未だ茜に恋をし続けている。



「あ、ムーン王子。おはようございます」



「茜ちゃん♪おはよ〜ベル兄さん探してるの?」



「うん、ムーン王子。ベル知らない?」



「知らないな〜でも、書庫に居るんじゃないかな?一緒に行く?」



「うん!ありがとうございます」



茜と書庫に向かう道中、俺は気になっていることを聞いてみる。



「茜ちゃんベル兄さんとはあれからどう?キスとかはもう…」



顔を赤くしている茜を見てまだだと察する。



「ってまだしてないか兄さん奥手だもんね」



「うん…でも、とても甘えん坊さんなんだ可愛いよね」



へぇ…甘えん坊さんなんだ兄さん。



俺達の前では決して見せない表情を想像しても違和感しかない。



甘えん坊担当はリリールだ。どうしてもリリールの顔で想像してしまう。



「どうしたの?」



「なんでもないよ…ただ甘えん坊の兄さんが想像出来ないなって」



「ムーン王子の前ではどんな感じだったの?」



興味津々といった表情で茜が食いつく。



「んーしっかり者で倒れないか心配…あと、不器用」



「成程…」



ふむふむと頷く茜を思わず抱きしめたい衝動に駆られるが踏み止まり俺は茜を書庫へと招き入れる。



「ベル!」



「茜?ムーンもどうして?」



「俺は茜ちゃんが兄さんを探してたから手助けしただけ♪じゃあごゆっくり〜」



ひらひらと手を振りながら退散する。



扉を閉め扉にもたれかかり



「あーあ…俺が幸せにしたかったな…」



と思わず呟き未練を振り払うように俺は歩き出した。



目的もなく自室に戻り俺はベッドで仰向けになりながら暇を持て余しいつの間にか眠っていた。



目覚めると外が暗くなっていることに気付く。



今は何時だろう?と時計を見る。



時計は20時を示していた。



夕食の時間の最中であることに気付き俺は食堂として使われているホールへと向かった。



「あっムーン様!ただいまお食事をお持ち致しますね」



「ありがと〜」



「ムーンやっと来たか」



「お父様遅れてすみませんでした」



「まぁ、良い今日は新しいメイドを紹介しよう…入りなさい」



「し、失礼致しますっ」



新人メイドがホールに入室することで姿形が明らかになる。



そこには黒く長い髪を後ろに纏めたお団子ヘアの小柄な女の子だった。



「新人のハスレンと申します。よろしくお願い致します」



「よろしくね〜ハスレンちゃん。俺はムーン。一応第2王子」



「はい!よろしくお願いします!」



彼女ハスレンちゃんがやって来て俺はハスレンちゃんがとんでもなく危なっかしい人だと分かった。



荷物を持たせると転ける、皿洗いをすると皿を割る、掃除をさせれば泡だらけになる
次第に俺は彼女から目が離せなくなっていた。



「はっすー!半分持つよ♪」



今日も彼女は泡だらけになることはない廊下の掃除をしていた。


だが、泡の変わりに葉っぱだらけだ。




「ムーン様、おはようございます」



「おはよ〜♪はっすーもうここには慣れた?」


と言いながら、さり気なく頭に付いている葉っぱを取る。



俺はいつしかハスレンのことをはっすーと渾名を付け親しくなっていた。



「はい!皆さん優しいのでここは楽しいですっ」



「良かったー!あ、急がなきゃご飯に遅れちゃう!はっすーまたあとでね〜」



はっすーはお辞儀をして



「はい!いってらっしゃいませ」



と言った。



朝食を終えて俺は暇を持て余し城の庭園で紅茶を飲みながらハスレンが薔薇に水をあげている様子を見ていた。



「ムーン様、いつからいらしてたのですか?」



「ついさっきだよ。所でここの薔薇ははっすーの担当だったっけ?」



「いいえ。ここの担当の縁堂さんは今、手が離せないそうなので代わりに」



「そっか、はっすーは人のことちゃんと見れてて偉いね」



俺ははっすーの頭を撫でる。



「あ、ありがとうございます!」



とても嬉しそうな笑顔を浮かべる。



「ハスレン!どこで道草食ってんだぁ?」



と横から割って来たのはハスレンの先輩ジュルジュだった。



「も、申し訳ございません。では、失礼致します」



「じゃあね〜」



本当に慌ただしい嵐のような子だ。



はっすーが来てから早半年。



いつも元気で真面目な彼女を今日は見かけて居ない


もう夕方


俺は流石に心配になり、はっすーの同僚達に行方を聞いたが



「朝からずっと連絡が取れない」



とのことだった。



俺はお礼を言い、はっすーを探しに城や街を探し回った。



「はっすー…」



だが、何処にも居ない。



途方に暮れ俺は橋に寄りかかりながら川を見ると向かいの橋下にはっすーを見つけた。



俺ははっすーの元へ向かいはっすーに声をかける。



「はっすー!心配したよ〜帰ろ?」



「…ムーン様、申し訳ございません先にお戻りください」



顔を逸らしながらそっぽを向くはっすーに



「…どうして?俺ははっすーと一緒に居たいんだ」



と言うと



「…どうして…ムーン様はのろまな私に優しくしてくださるのでしょうか?」



と訊ねる。



「…俺ははっすーのこと可愛いと思ってるし一緒に居ると元気になるんだ…もう知ってると思うけど俺、失恋してまだ傷が癒えてないんだよね」



「…」



「隙あらばあの子のことを考えて苦しくなって…そんな時にはっすーが来たの…最初は危なっかしいなとしか思わなかったのに今はもうはっすーが俺の生き甲斐なんだ」


「…ムーン様は私に、は勿体ない…お方です…綺麗で優しい気の利く素晴らしいお方です!私はムーン様のことが…好きです」



涙で瞳が潤むはっすーを俺ははっすーを抱き寄せ耳元で囁く。



「俺も…はっすーのことが好きだ。絶対幸せにするから」



「はい…よろしくお願い致します…っ!」



涙ぐみながらはっすーは了承の返事をした。




こうして俺とはっすーは晴れて交際を始めた。