マスターが水を持ってきた。


「かなり久しぶりだよね。

なかなか来てくれないから、

寂しくなっちゃったよ。

紗江ちゃんの顔が見れて

嬉しいよ」


「すみません、仕事が忙しくて

なかなか来れなくて」


「将来有望な

デザイナーさんだもんな。

さあさあ、今日は何にする?」


「僕はいつものハンバーグで。

紗江はどうする?」


「私はエビドリアで」


「はいよ~」


マスターは相変わらず陽気だな。


マスターが席から離れ、

紗江の顔が少し曇った。

僕は一口、水を飲んだ。

「紗江、話しって何かな?」


「うん… 実はね、

お父さんがお見合いを

決めてきちゃったの…」

「え…」


「もちろん最初は断ったわ…

でも、もう全てセッティング

しちゃってるみたいなの…

私… 絶対に行きたくないよ…」


「お母さんは?」


「お母さんも最初は

行かなくていいって

言ってたの…

でも、暫くして

会うだけでいいからって…」


「そう…」


「お母さんに聞いたんだけど、

どうやらお父さんの会社、

あまり経営が上手く

いってないみたいなの…

お見合い相手は会社の

取引先の人みたいで、

結婚すればうちの会社が

安定するからって…」


「そうか…」


「そんなの私には関係ない…

会社なんかどうなってもいい…」


「うん…」


暫くの間、沈黙が続いた…


マスターが料理を運んできた。


「どうぞ、ゆっくりして行ってね」


マスターも何かを感じたのか、

すぐにいなくなった。


二人はそのまま無言で

食べ始めた。


外の照明がキラキラと

輝いている。


二人が料理を食べ終える頃、

僕が話し出した。


「オレは…

行ってもらいたくない。

それだけは言っておくよ…」


何故この時、もっとはっきりと

行くなって言えなかったのだろう。