お父さんは仕事へ

行ったみたいだ。


紗江はずっと泣いている。


「永井さん… ごめんなさい…」


お母さんが謝ってきた。

お母さんの目にも

うっすらと涙が見えた。


「いえ…」


僕はそれしか言えなかった…




「本当にあの時はごめんなさい…

あれから私と紗江で

ずっと説得してるんですけど…」


僕は何も言えなかった。

「敬太、必ずお父さんに

許してもらうから、

もう少しだけ待ってね」


「うん…」


「うん」と言ったけれど、

多分許してはもらえないだろう…



「ご馳走さまでした。

今日は招待して頂いて

ありがとうございました」


「こちらこそ、来て頂けて

本当に嬉しいわ」


「それで失礼します。

じゃあね、紗江…」


「うん…」



僕は暗闇の道を

一人寂しく帰った。




それから数日後、

紗江から電話があった。

「もしもし、どうした紗江?」


「今日、帰りに会えないかな?」


「いいけど… どうかした?」


「うん… 会った時に話す…」


「そうか…

それじゃあ、いつもの店に

19時でいい?」


「うん…」


紗江が急に会いたいなんて…


何かあったのかな…



「敬太、ごめん。

仕事が長引いちゃって」

「平気だよ。

寒いから中入ろう」


僕らはいつも来ている

小さなレストランに入った。


この店は僕が学生時代に

アルバイトをしていたお店だ。


『カラン カラン…』


ドアの鐘が鳴る。


「マスター、お久しぶりです」


「敬太と紗江ちゃん!

久しぶりだな。

座って、座って」


僕らはいつもの窓際の席に座った。


今の時期は庭にクリスマス用の

照明が飾られている。


幻想的な雰囲気が漂っている。