「夢？」


「そう…」


母の声は小さく掠れている。


「お父さん、お母さん、

お姉ちゃん、紗英の四人で

お花見に行ってる夢よ…」


「え？」


私が見た夢も四人でお花見に

行っていた…


「桜の下で、おはぎをみんなで

食べてるの。


みんな楽しそうだった…」


母はニコッと笑った。


私は母の手を取った。


胸が苦しくなる。


必死に堪える。


体が震える…






母は暫くして、また眠った。


私はコンビニに行った。


達也さんはコンビニの中で

雑誌を見ていた。


私に気付き、外に出てきた。



「おはよう。朝からごめんね…」


達也さんは少し弱気な顔を

している。


「ううん。平気よ」


「ありがとう」




私たちは達也さんの

家へと向かった。



「達也さんの家はここから

近いんですか？」


「10分ちょっとだよ」


「けっこう近いね」


「うん…」


「緊張してるの？」


「まぁね…


何言われるか分からないからさ」


「大丈夫よ」


達也さんが笑った。


「何か可笑しい？」


「ごめん、違うんだ。


桜井さんに大丈夫って言われると

本当に大丈夫なように

思えてくるだ。


不思議だよ」


私は少し恥ずかしかった。


「大丈夫って、シンプルだけど、

その中にいろんな思いが

詰まってるというか、

何か温かい感じがする。


僕と親父の数年間の溝を

綺麗に埋めてくれるような…」


私は何も言わずに、

ただ達也さんの話しを聞いていた。





「あそこだよ」


達也さんが指を差す。


立派な一軒家。


「あそこ？」


「そう」


「立派な家ね」


「親父は仕事を頑張ってたからね。


でも、普通の家だよ」