「おはぎもあるからね」


母がおはぎを出した。


父は無言でおはぎを手に取った。


父は少しの間、何か考えた様子で

おはぎを見ている。


「ねぇ、お父さん、おはぎに

何か付いてるの?」


「ううん。お母さんが

作ったおはぎ、美味しそう

だなって」


「ふ〜ん」


父はおはぎを食べた。


父はニコッと笑った。


「お父さん、美味しい?」


「うん!すごく美味しいよ。


ほら、紗英も食べな」


「うん!」



私はおはぎを手に取り、

一口食べた。


お母さんの優しい味が

体中に広がっていく。


「美味しい?」


母は私の顔を見ている。


「うん、おいしい!」


母は私をギュウ〜っとした。


そして、お姉ちゃんとも。


父はそんな私たちを写真に

撮っている。


その時、風が吹いた。


桜の花びらが舞う。


雨のように舞う。


母は私の乱れた髪を撫でて

整えてくれた。


温かい手…








私は目を覚ました。


母の手が私の頭の上にあった。


母は眠っている。


私はいつの間にか

眠ってしまったみたいだ。



「ブルル ブルル…」


メールが来た。


『朝早くにごめん。


さっき親父に電話した。


10時に仕事に出るらしい。


だからその前に家に行きたい。


一緒に行って貰えるかな?』



達也さんからだった。


私は返事を返した。


『いいよ。待ち合わせ場所は?』


また返事が来る。


『8時半に昨日のコンビニ。

本当にごめん…』




「紗英… おはよう」


母が目を覚ました。


「ごめん、起こしちゃったかな」


母は笑顔で首を横に振った。


「私、後で一度家に帰ってくるね」


母は頷いた。



「紗英…」


「何?」


「お母さん、夢を見たわ…」