さようなら

「あの…　桜井さんは、この辺りに

住んでるんですか？


「あ、はい」


「お母さんは？」


「今日は… 家にいます」

「夕食、食べちゃって平気？


メールとかした方が…」


「いえ… 今日、母は友人と

食事に出てるんですよ。


だから大丈夫です」


「そう… だからコンビニに…」


「はい…」



母が入院してるとは言えなかった。



「達也さんは、お父様に会いに？」


「うん… 桜井さんのお母さんと

話ししてから、色々考えてね…


実は自分の母親にも

言われたんですよ。


亡くなる直前に、「お父さんは

あなたの事をすごく

心配してる」って。


でも、意地張って、今まで

会わなかったんです…」


「そう…」


「でも、なんて言って

会えばいいのか分からなくて。


父親と二人だけで話すのも

なんか恥ずかしいってのに」


「あんまり色々考えずに、

普通に家に帰るだけで

いいんじゃないですか？」


「普通にか…」


「うん、普通に、ただいまって」


「うん…」


「別に謝ったりしなくても

いいんじゃないかな。


普通に二人で過ごすだけで

いいと思いますよ」


「そうか… でもな…」


「も〜、しっかりしなさい！」



達也さんがウジウジしていたので

私はつい大声を出してしまった。


達也さんは驚いた顔をしている。



「じゃ、じゃあさ、君も一緒に

来てくれないかな。


そしたら普通に会えそうな

気がするんだ」


「え？」


「お願い！」



達也さんは手を合わせ、

頭を下げた。


私は少し戸惑ったけど、

何故か「うん」と言った。



その後、料理が運ばれてきた。


私たちはあまり会話を

交わさなかった。


お互い、恥ずかしかった。


私たちはお会計を済まし、

外に出た。