「そうか…

なかなか難しいな…

娘の事はもちろん

大切にしてあげたい。

けれど、何千人という社員も

抱えている。

会社が倒産してしまったら、

その何千人の社員、

そして家族までもが

路頭に迷う事になってしまう。

他に手がなかったんだろうな…」


「そうでしょうね…

父親とはあまり話した事は

ありませんが、

紗江の話しを聞く限りでは、

そんな冷たい父親では

ないんですよ。

僕との交際も、最初は

応援してくれてたみたいですし」


「そう…

お見合いの事はなんて

言ったんだ?」


「行って欲しくないって…

一言、それだけ」


「確かに、なんて言っていいか

分からないよな…」


「本当だったら、

誰に反対はれようが、

紗江を奪って一緒になりたい…

でも、実際にはそんな事は

出来ない。

紗江の父親の気持ちも

良く分かるから」


「確か、敬太の家も…」

「ええ…

うちも昔会社を経営して

いたんです。

でも経営が傾いて、

結局倒産してしまったんです。

従業員も何十人かいました。

その人たちみんなを

路頭に迷わせてしまったんです。

僕たち家族も苦しかった。

いろんな事を言われた。
同級生の親もうちで働いていて

その同級生からもいじめられた。

そんな思いを紗江や紗江の家族に

させたくはない…」


「そうだったのか…」


「僕はどうしたらいいのか…

分からない…」


「どちらを選んでも

間違いじゃないし、

正解でもない…

そしてどちらを選んでも

後悔するかもしれない。
それでも、どちらかに

進むしかない…」


「はい…」


僕は3杯目のジントニックを

飲み干した。


「マスター、ありがとう。

そろそろ帰ります。

幾らですか?」


「いいよ、今日は奢りだよ」


「ありがとうございます…」